デブハロア バシブル
緑映える木々が生い茂り、風に吹かれた桜の花が舞い散る。
太陽の光が木々の間から差し込む。
今日は、平年と比べると少し気温が高く、少し汗ばむ陽気であった。
そんな中、春北高校では、生徒会主催の部活勧誘が開催されていた。
校門から校舎までの道のりに多くの部活が机とイスを設置し、
新入生に対して説明を行う。
新入生は、そこで入部の意思があれば、入部届を提出する。
ここでは説明だけを受けて、後日入部することも可能だ。
部活は強制ではないので、皆、新入生獲得に必死だ。
加熱しすぎることもあり、部活動同士で喧嘩してしまうこともあるため
見回りも強化されている。
そんな中、行列ができている部活があった。
鉄道研究部だ。
女子生徒の比率が高いのは気になるところだ。
彼女らは話を聞き終え、鉄道研究部から離れる。
行列も少しずつ減っていった。
すこし落ち着いたからか、鉄道研究部の男子生徒がジャケットを脱ごうとしていた。
「よかったですね。
たくさんの人が聞きに来てくれましたよ
少し暑くなっちゃいましたよ」
身長は、そんなに高くなく、スラッとした体系だが、
その顔はアイドルのように端正なものであった。
ただ、中学生のような幼い感じも持ち合わせている。
その顔に笑みがこぼれる。
多くの人に、自分の鉄道愛を語れたからだ。
「久しぶりですよ。
こんなに、多くの人に僕の鉄道愛を語れました」
彼はジャケットを余っていたイスの背もたれにかける。
「それにしても、よかったですね。
2人も入部してもらえて」
彼はそういいながら座っていた元のイスに腰掛けた。
「今年も、楽しい部活になりそうですね」
ゴツン。
彼の隣に座っていた女子生徒が立ち上がり、彼の頭を思い切りはたいた。
彼はその痛さに耐えられず、その場にうずくまる。
「っ、、、な、何するんですか?」
「何が、2人も入部してもらえてよかった、よ。
2人しかよ!
なんで30人来て、2人なのよ。
そもそも今日はあなたの鉄道熱を語る日じゃないわよ」
「刈谷部長、30人じゃないです、32人です」
「そこはいいのよ」
「何でですか。
鉄道に関して語ることは部にとっていいことじゃないですか」
「あれだけ、熱く語れば、誰でもひくわよ」
「まだ、分からないですよ。
明日、入部届出してくれるかもしれないですよ」
彼は、部長の刈谷と一緒に部活勧誘をしていた。
刈谷が彼を部活勧誘に指名したのは、目的があった。
それは、女子生徒を引き込むためだ。
彼をえさに女子生徒を引き込む事に成功した。
そこまではよかった。
しかし、彼が熱く鉄道を語れば語るほど、女子は去っていった。
彼女の予定では、彼に一言もしゃべらせない予定ではあったのだが、
それを止めることができなかった。
彼女の作戦ミスである。
それでも、2人が入部したのは奇跡といってもいいくらいだ。
「はぁ~、マスク買ってきておけばよかった」
「風邪ですか?」
「あんたに付けるマスクよ」
「僕は風邪ひいてないですよ」
「10枚くらいつけて、しゃべれないようにしておけばよかったわ~」
「それじゃ、僕、窒息してしまいます」
「気絶していた方がましだったわよ」
「ひどいですよ~」
「もういいわ。
2人でも入ってくれれれば
雄哉君は、部室に戻っていいわ」
「何ですか、部長が指名しておいて」
雄哉はふてくされるが、刈谷に睨まれた為、席を立つ。
彼の名前は、天貝雄哉。
鉄道研究部の2年生だ。
女の子に人気はあるのだが、未だに付き合った経験はなし。
16年間、彼女はいない。
たくさんの女の子がよってくるが、彼女になる前に、女の子の方から離れていく。
部活勧誘でも、鉄道研究会に多くの女子生徒が集まってきたが、
彼が熱く語れば語るほど、女子生徒が離れていった。
雄哉はそれをそれほど気にしていなかった。
別に女子に興味がないというわけではない。
彼にとって、興味の対象は鉄道だけであるからだ。
それが理解できない女子は、ほとんど彼から離れて行き、遠くから見守るようになるのだ。
しかし、そんなことを本人が知るはずもなかった。
そんな彼は、部活勧誘が行われている中、部室に向かって考えながら歩いていた。
「昨日の人たちはいったい何者だったかなぁ」
昨日、スーパーで美少女に殺されそうになり、謎の女性に助けられた。
結局、その2人とは何も話さずに別れてしまった為、
状況が分からないでいた。
「夢だったのかな?」
そう思っていると、雄哉は一人の男子生徒に呼び止められた。
「ゆう」
身長が高くがっちりした男子生徒が声をかけてきた。
雄哉と並ぶと親子ような体格差だった。
「黒崎真二君、何ですか?」
「何でフルネームなんだ。
まぁいい。
どうしたんだ、一人で、勧誘はどうしたんだ?」
「部長がもういいって」
「そうか。
予想通りになったか。
だから言ったのになぁ。
俺が、そっちにいければよかったんだがな」
「予想通りって。
どうして分かったんだよ」
「ゆうに部活勧誘の荷は重いっていうことだよ」
「バカにしないでよ。
僕だって、部員を勧誘できるよ」
「いや、無理だな」
「部員連れてきたら何かしてくれる」
「あぁ、いいよ。
1日デートしてやるよ」
「それは僕の苦痛でしかないよ。
うーん、そうしたら、今度、いつものあのお菓子買ってきてよ」
「えっ、そんなんでいいのか」
「最近、実家に帰っていないからね。
久しぶりに食べたくなっちゃってね」
「野球部の部活勧誘はどうだった?」
「新入生は6人だよ。
もっときてくれると思っていたんだけどな」
「こっちは2人だよ」
「今年は不作だな」
「で、僕を呼び止めたのは、野球部の勧誘?
僕は入らないよ」
「入ってほしいとは思っているが、
そもそも、ゆうは野球のこと知っているのか?」
「馬鹿にしないでよ、野球くらい。
球をとったら、1塁に走るんだよね、、、それで、、、」
「いや、もういい。
お前が野球を知らないことがよく分かった」
今日は野球部あるから鉄研に参加できないかも。
早く終わったら行く」
「頑張れよ~」
雄哉は黒崎と別れた。
部室に入ると、副部長の奥府と布良がいた。
パソコンの席に奥府、布良が座っている。
奥府が、雄哉に声をかける。
「お疲れ。
早いお帰りだな」
「部長に帰らされましたよ」
「まぁ、意外に遅かったな」
「何ですか、副部長まで」
「おっ、誰かにも言われたのか」
「黒崎にも言われました」
「まぁ、誰が見ても刈谷の過ちだからな」
「そうですよね、部長の責任ですよね」
「そうだな。
天貝を連れて行くなんて、無謀だ」
「副部長まで、ひどいですよ~」
雄哉は、黒崎と同じ事を言われ、拗ねてしまった。
奥府と布良はそんなことは気にせず、パソコンの席で話し合っていた。
「布良、今度はドコにいくんだ」
奥府は鉄道写真撮影が趣味の撮り鉄、布良は鉄道を乗って楽しむ乗り鉄。
2人で関東を回り、部活で共同誌の「関東の鉄道」を作っている。
雄哉は、2人とも寡黙なので、取材中は静かなのだろうと思っていたのだ。
たまたま2人の取材に同行した時にその考えが変わった。
いつもは寡黙な布良が奥府と冗談を言い合っていたのだ。
それ以降、雄哉は布良に積極的に話しかけていたのだが、
「身延線」
布良はそう言って黙り込んでしまう。
いつも話が続かない。
雄哉が続ける。
「身延線かぁ、あの辺りは温泉もいいよな。
僕も行ってみたいよ」
そう話しかけたが、反応はなかった。
雄哉はもう諦めて、自分の席に着いた。
刈谷が部室に到着した。
「黒崎君以外、全員いるわね。
今日の話し合いは2点。
まずは、部員の問題。
2名の入部が決まって、7名になったけど、
黒崎君の扱いが微妙になってきたの」
「もう、黒崎の奴」
「黒崎君は野球部と兼務だから、部活要綱の7名以上の1名に
含むかどうかが 問題にされているの。
部になるかどうかの最後の1人が兼務というところが
議論になっているわ」
「そうすると、部費で買っていた雑誌は?」
「もちろん、自費購入になるわ」
「わぁ、僕の雑誌が~」
「雄哉君の雑誌じゃないでしょ。
とくかく、兼務でもいいからあと1名ほしいの。
勧誘は引き続き続行してね」
「僕の雑誌~」
「雄哉君、いい加減にしなさい」
雄哉は刈谷に叩かれ静かになる。
「もうひとつの問題は、担当顧問よ」
「あれ、横須賀先生が担当してくれるはずじゃなかったんですか」
「横須賀先生が体調を崩されて、入院されるそうよ。
代わりを探しているけど、顧問に関しては、他の先生を充てるそうよ。
顧問代わるからよろしくね」
その時だった。
頃合を見計らっていたかのように、一人の女性が入ってきた。
「失礼します。
今日から、臨時職員として採用された教員の天田と申します。
鉄道研究部の顧問になったのでよろしくね」
その女性に雄哉は見覚えがあった。




