2. 僕たちは同じ道を歩いている、って思ってたんだ
いつものように塾にいくと、例のかわいい女の子が座っていた。早速かなたくんに教えてあげようと思ったら、かなたくんがその日はいなかった。
女の子のほうに近づいたらいつものように睨まれたような気がしたから、反対側のすみっこに座った。かなたくんがいないから、ものすごく心細かった。かなたくん、時々いないんだよね。
次の授業のときに、その女の子のかわいさのことを力説してたんだけど、その子の特徴を話していたらすごい微妙そうな顔をしてた。かなたくん、自分のことだと気づいたってあとから聞いた。僕は熱心に、想い人本人に、彼女がどんなに可愛いかを力説していたことになる。
このあともそういうことをかなたくんに何度も言ってたんだけど、かなたくん、一度も自分のことだって言わなかったんだよね。あとで理由を聞いたら、
「言ってお前信じたか?」
と言われた。確かに、言っていい冗談がある、と怒ったに違いない。
授業が終わると自習時間になって、かなたくんはそこで宿題を片付けていた。習ったばかりの算数の問題をサクサクと片付けていく。かなたくんはやっぱりすごい。どうして分かるのかと聞いたら、
「授業でやってただろ」
とかなたくんは言う。僕には何のことか全くわからない。で、解き方を教えてくれるんだ。
かなたくんの教え方は面白くてためになる。自習時間にかなたくんが教えてくれるから、お父さんに教わることもなくなった。お父さんも僕がちゃんと授業で理解できてるから不思議に思ったみたい。お父さんに聞かれたんだ。
「最近、ちゃんと分かって帰ってくるな。シグマも成長したな」
「かなたくんが教えてくれるの」
僕はそう答えた。
「かなたくんって、逢坂かなた、くん?」
くん、と言う前になぜか口ごもった。どうもお父さんはかなたくんが女の子なのに気づいてたみたい。言ってくれよ。でも、信じなかったか。
お父さんがなんで名前を知っていたかといえば、僕と教室の一番二番を争ってたからだって。水無月至馬と逢坂かなたの名前がいつも掲示されていたなんて、あとで知ったよ。僕も名前だけは有名だったってこともね。
毎月のテスト、成績がいいのは僕の方だった。
「また負けたあ」
かなたくんはいつも悔しそうに言う。
「くそ、納得いかねえ」
ある日かなたくんは、叫んだ。
「どうしたの?」
「なんで僕が教えた単元なのに、僕よりも点数がいいんだよ」
なんで解けるのかと言われれば、解けるからとしか言いようがない。なんか、頭の中で「つながる」んだ。
僕からしたら、あんなに分かりやすく教えてくれるかなたくんがお手上げな方がわからない。
そうこうしているうちに僕たちは5年生になった。大きな街の教室で絶壁特訓の授業が始まった。そこにはかなたくん以外にも、すごい人たちがいた。
完璧超人の九城くん。歩く受験コンピューター御堂院くん。紅一点美少女、山之内さん。でも、僕にはかなたくんが一番輝いて見えた。九城くんと御堂院くんは絶壁を受けるんだそうだ。かなたくんも、絶壁を目指すだろう。
だから僕も絶壁を目指した。みんなと同じ学校のほうがドキドキすると思ったんだ。それは、六年生になってよ変わらなかった。みんなで絶壁に通う日を夢見て、僕は毎日勉強した。
でも、絶壁はこの地域一番、ううん、日本一という人もいる進学校。絶壁特訓からも、一人、また一人と消えていく。
そのうちある生徒が、連名状を作って持ってきた。
「ここにいる全員、絶対に絶壁を受けると誓え!」
みんな名前を書いた。山之内さんとかなたくん以外。かなたくんが名前を書かない理由は今なら分かる。絶壁は男子校。かなたくんは受験できないんだ。
僕はかなたくんが男の子だと信じてたから、かなたくんにこういったんだ。
「僕が代わりに書いてあげるよ」
そして、ペンを持って書こうとしたら、ペンを取り上げた。
「やめろ」
あんな冷たい目のかなたくんを見たのは初めてだった。僕も悲しかった。かなたくんに嫌われたと思ったから。
でも、次の日かなたくんは笑顔でやってきて、自分の名前を書き入れた。
で、言ったんだ。
「みんなで試験場に行こうな。戦友」
そう、ライバルじゃないんだ。ライバルはほかの塾に行っている顔も知らない人たちで、ここにいるのは、苦労をともにしている、戦友なんだ。そして、難題と模試にくじけそうになりながらも、その日は来た。僕とかなたくんは、絶壁の試験場への坂を手をつないで上った。




