47話人攫いの魔族
「えぇと、温泉をくれというのはどういう意味で……」
「えぇ?理解できない?バカっぽい!だからぁ、この泉ちょうだいっていってるんですん!主様にあげますんっ」
「バカ……あの、この泉は私の手から離れると効果が24時間で切れちゃうんです。ですから、もし入りたいならウチの銭湯に来ていただいて、お金を払ってもらえれば……」
「お金ェ?も〜人間ってめんどくさい!てか、主様にこんな粗末なところに来させるの、無理っぽい!」
「主様を歩かせるなんて……不敬の極み……」
「そーそ!フケー!人間!アナタが来る一択ですんっ」
「えぇ……」
「ったく。おぃ、お前ら。ナツはここの店主だ。お前らにとったら粗末かもしんねぇけど、皆ルール護って浸かりに来てんだぞ。それに、浸かりに来た方が温泉も多いしコーヒー牛乳もあるし、もてなせるぜ。な?」
「ラーちゃんナイス!そうそう!来た方がその、貴方達の主さんにも満足して貰えると思いますよ?」
「ダメダメ〜主様はここには来られないですん」
「お前らの主って一帯誰なんだ?」
「それは極秘……教えられない」
「ん〜どうしよっかラーちゃん」
「どうもこうも、わざわざ出張してやんのもなぁ。こいつらだけ特別扱いってわけにもいかねぇし」
「でも病気とかかもしれないよ?」
「まーたお前はそうやってお人好し見せやがって。一人特別扱いすると、その後も特別扱いしなきゃならねぇってリンファが言ってただろ?っつーわけだねーちゃん二人。諦めてその主ってやつ連れてきてくれ。そしたら温泉提供してやるよ」
「う、うん……ご希望に添えずすみません……」
怒ってまた銭湯破壊されなきゃいいけど……
「え〜アイハどうしますかン?」
「……一度、主様に指示を仰ぐ……」
「そうだねそうだねっ!早く主様に会いたいですんっ」
「人間」
「は、はいっ!」
「後悔はない?」
「?……は、はぁ」
その後破壊女達は建物の修理代と称し、紫色に輝く指輪を残して去っていった。シャルナ曰く、ダンジョンの宝箱でしか得られない高価なものだと言っていた。
後悔ってどういう意味だったんだろ……なにも起こらないといいけど、なんだろう……胸騒ぎがする
◇◇◇
次に目を覚ますと、そこは見知らぬ天井。豪勢なシャンデリアが下がっている。
体を包み込む柔らかな布団の心地良さに状況の理解が遅れた。
眠……二度寝しちゃお〜……
「っ?!」
飛び起きる。赤いカーペット、白い壁、大きめのチェスト、テーブル、両開きの扉。知らない部屋。
「へ……ここ、どこ?!」
「おぉ、目覚めたか」
背後から響いた声に振り返る。ベッドサイドの横に位置するデスクには、黄緑色の髪をした男が座していた。男は分厚い本を閉じると立ち上がる。
色白で、瞳孔の小さい赤い瞳、黒いリップ。黄緑色の短髪からは黒々したツノが生えている。
「ようこそナツ。僕の魔王城へ」
「え……えぇえええ?!」
ナツ、拉致されるの巻。
◇◇◇
「おぃ!大変だリンファ起きろ!!」
ピクシードラゴンのラーウェルは忙しなく羽を動かしながらリンファの頬を叩く。
「ん……なんじゃぁ?開店はまだじゃろう?」
「ちげー!!ナツが……ナツがいねぇんだよ!!」
「っ……外じゃないんか?それか女湯……露天とか」
「思い当たる場所はもう探した!キラとソラに頼んで周辺を探しにもいかせてる……けど、靴も着替えも全部残ってるんだ!!」
「まさか――」
リンファは舌打ちを零し、手早く髪を結う。斧を片手にベッドを飛び出した。
「昨日の迷惑客じゃな?」
「多分な!俺だけじゃねぇ。キラソラの探知も潜り抜けて、リンファの隣に寝てたナツだけ攫っていく……そんな芸当ができんのはヤバい戦闘力をもったアイツらの可能性が高ぇ!」
「奴ら何者じゃ?」
「わからねぇ……だが、恐らく人間じゃねぇことは確かだ」
「クッ……昨日大人しく帰ったと思ったら、これが狙いじゃったか」
「おぅ!ナツはいるか?」
銭湯の戸を開けたのは天空の剣パーティ、ゲルガーだ。
「すまんが今日は銭湯は休業じゃ。また改めて……」
「いや、今日は温泉じゃなくてナツに用があるんだ」
「ゲルガー!ナツは攫われちまったんだ!夜の間に!」
「なんだと……?!一足遅かったか!」
「どういう事じゃ?あの女達のこと、なにか知っとるんか?」
「あぁ。奴らが服につけていた薔薇の紋章。見覚えがあると思ったんだ。奴らは、魔族……つまり、ナツを攫ったのは魔王ネオだ――」
凍りつく番台。
魔王に攫われたナツの運命やいかに――




