46話破壊女達の温泉録
「温泉入りに来たんですか……?」
「そぉですん!なんかレベルアップとか疲労回復とか言ってるじゃんね〜気になる〜」
「で、なんで銭湯壊したんですか?」
「逆らえないようにするためですんっ」
「順序まるで逆だからね?!普通入れてくださいって頼んでから破壊だよ?!」
「人間は細かいですん」
「大事だよ!見て!この壁ぶっ壊れてる!」
なんなのこの子達……頭のネジがふっとんでる……人間はって、人間じゃないの?
「楽しいおしゃべりはここまでだ。どちらにせよナツ様の銭湯を破壊したことに変わりはない。敵とみなす」
キラが剣を構える。ソラもリンファも冒険者達もやる気満々だ。
「あーらら、どうしますんアイハ?やっぱ皆殺し?」
「ご主人様に怒られる……」
不戦湯の目の前で一触即発か――と、ラーウェルが私の肩に乗っかる。
「おぃ、おぃナツ」
「ン?」
「そいつらと争うのはやめとけ……そいつらは……ヤベェ」
カタカタと身体を震わせるラーウェル。
「確かにヤバそうな二人だけど、キラソラだけじゃなくて天空の剣パーティの人もいるよ?」
「く、比べ物になんねぇ……奴ら、底なしの魔力だ。やり合えば確実にここに居る全員が殺されるっ」
怯えるラーウェルの瞳。
ラーちゃんがそこまで言うなんて、一体何者?
「皆!武器を収めて!」
「ナツちゃんコイツら温泉に入れる気?賛成できないなぁ」
「ソラ、お願い。ここは不戦湯。壊れた建物の弁償はしてもらうから、とにかく争いは止めて」
「……分かったよ。キラもほら」
「あぁ……だがソラ、油断するなよ」
冒険者達も武器を下げる。とりあえず一触即発は避けられたらしい。
「いいよ、温泉入れてあげる。けど、ここは不戦湯だから争うなら出ていってもらうよ」
「りょーかいですんっ」
女湯に向かっていくニーシャとアイハ。その胸元で銀色の薔薇の紋章が揺れた。
「……あの紋章、どこかで……」
そう呟いたのは、天空の剣リーダーのゲルガーだったが彼女たちの正体を知るには至らなかった。
◇◇◇
「はあ〜!これが極楽ってヤツですねん!アイハアイハ!お肌がすべすべになりましたん!」
「女神の泉……気持ちいい」
迷惑客は温泉を気に入ってくれたらしい。一安心と安堵するがラーウェルの言葉が引っかかり警戒心は解けない。私は見張りも兼ねて女湯内を掃除することにした。
「大丈夫かなぁ……」
「今の所は、な。警戒心を怠るんじゃねぇぞナツ。怒らせたら一帯が焼け野原になりかねねぇ……」
フッと頭をよぎるユラの予言。
確か私が荒野に一人立って泣いてるんだっけ……まさか今日がその日ってこと?!じゃあこいつらのどっちかが魔王ネオ?!
ブラシを両手で掴み、生唾を飲み込む。
「ねぇねぇ、貴方が泉の主さんですかぁ?」
バレてた……
柱の影に隠れていたつもりが彼女たちからはお見通しらしい。
「一応……」
「掌からでるの?」
「スキルなので、特定の蛇口に触ると出ます」
「へぇー!面白いですん!あっちの泉は別物?」
「あ、はい。あっちが硫黄温泉で今入ってるのが――」
「浸かってみたいですんっ」
聞いちゃいない。ニーシャは大はしゃぎで別の浴槽へ向かう。アイハは炭酸水素塩泉にてまったりしているみたいだ。
「……警戒して冒険者たちが外で構えててくれてるけど、いらなかったかもね、ラーちゃん」
「あぁ。本当に温泉入りに来ただけなら、それが一番いいんだけどよ……何分こんな恐ろしい奴らは初めてだ。気を抜くなよナツ。いつでも逃げられるようにしとけ」
「う、うん」
緩んでいた気を引きしめる。
「こっちは?わぁ!外にも泉がありますん!」
「そっちは露天風呂で――」
ハッとする。露天には"あの温泉"があるのだ。
「待って!酸性泉に浸かったら体が溶けちゃう!!」
神獣の皮膚だからこそ耐えられた湯船だ。いくらニーシャが強かろうが見た目は人間と相違ない。万が一怪我でもしたら、予言通り一帯が焼け野原に――!!
露天に飛び出す。ニーシャの次の目的は、運の悪いことに酸性泉。
なんで危険と書いてある温泉から行く?!
声をかけるよりも前に足先が潜り込んでしまった。
ひっ!
叫び声をあげそうになるのと、ニーシャが酸性泉に飛び込むのは同時。
「わは〜!なにこの泉?!体がしびびってして気持ちいい〜!!」
バッシャバッシャ
ニーシャは煮えたぎるような酸性泉を顔面にかける。私とラーウェルは違う意味で悲鳴をあげた。
やっぱりこの二人、ヤバい奴らかも?!
「ねぇ女神さん」
「あ、わ、私?!私は女神ではないんですが……」
「私達の主様に、この泉くれない?」
「え?」
謎の強敵二人。その目的とは――




