44話予言の刻は近づいている
ダンジョンクリアから一ヶ月後、不戦湯はラザ国内に限らず国外でもその名を知られつつある。
王の援助により銭湯のスペースは拡大。男女三つずつの大浴場に小さな釜風呂が四つ。さらにサウナを取り付けるという豪華っぷり。ついでに男湯には王専用の浴槽まである。
そしてつい三日前に完成したのが――
「あぁ……いいお湯ですわね。また夜空を見ながらナツの温かな温泉に浸かれるなんて、私は幸せ者ですわ」
「えへへ〜そんなそんな。ウィラさん達との出会いがあったから、今こうして立派な銭湯になってるんですよ〜」
そう、露天風呂である。ウィラは滑らかな白い頬を赤らめ、トロミのある温泉を両手で掬う。
冒険者駆け出しの頃、天空の剣パーティメンバー達に初めて温泉を振舞った時のことを思い出した。
「ウィラさん達も無事にダンジョンをクリアしたみたいで良かったです」
「ええ。王から一週間の休暇を許可された時、ゲルガーの第一声が『温泉んんん!』でしたのよ」
「そ、そんな大袈裟な」
「いいえ。特に今回は疲労感が酷かったですから。ユンベルもゲルガーも満身創痍。せめて怪我を癒してからと王宮の医者に言われたのに、温泉に入った方が早く治ると引きずってまでここへ来ましたのよ」
「わ、わぁ……それはもう硫黄温泉にたっぷり浸かっていただいて……Sランクパーティでも手こずるって、相当なダンジョンだったんですね」
「えぇ……ダンジョン主、ボスが厄介でしたわ。神獣ケルベロス……」
「け、ケルベロスって頭が三つあるっていうあの……」
「えぇ。ワニの頭を三つ持つ、恐ろしい生き物ですわ」
「ワニ?!……そ、それは怖いですね」
「ダンジョンのボスと言えば強くても魔獣レベル。Aランクパーティが三つ纏まれば勝てる相手でしたの。ですがナツ達がクリアしたダンジョンのボスはSランクパーティ二つ分。私達がクリアした方は、Sランクパーティ五つの大集結で五分五分でしたわ」
「え、えぇ……ダンジョンのレベルが上がってるってことですか?」
「えぇ。歴代ダンジョンにも神獣が現れたことはありますが……それは神獣の気まぐれと言いますか……早々あることでは無いのですわ」
「それが二箇所も重なってたってことか……何でだろう?」
「聞いてみればええじゃろう」
口を挟んできたのはリンファ。露天風呂の縁に肘を乗せ、優雅に酒をいただいちゃっている。
「聞くって誰に?」
「キツネにじゃ」
リンファが顎で指し示したのは、女湯の露天にだけ配置した特別な温泉、酸性泉に浸かるクリスタルフォックス。
魔獣であるレオクシスさんでも「酸性泉に浸かるのは自殺行為」と言われているため、神獣専用風呂となっている。
「ちょ、キツネとか言わないの。温泉が血の海になっちゃうでしょうが!」
「あんだけナツの温泉気に入っとるんじゃ。殺さんじゃろ」
「何するか分かんないんだから刺激しないでよ〜」
「人間の血肉塗れの温泉も、悪くないかもしれませんね」
クリスタルフォックスの瞳がこちらを向き、思わずウィラの背中に隠れる。
ほらだから言ったじゃん!フォックスさん何考えるか未だに分かんないんだから。リンファの馬鹿……
「ダンジョンとは、神が創りし自然界の建造物。主にならないかという誘いに頷けば、ある程度力のある魔獣や神獣が主となります」
「え……そんなスカウト的な感じなんだ」
「ただ今回は、誘いというより脅しでした。私の首をダンジョンと繋ぎ、無理やり主にしたのです」
「え?加護を与える人間を選ぶためじゃ……」
「そりゃ建前じゃ。まさか神獣が人間に首輪嵌められて逃げられなくなってるなんてプライド上口にできんじゃろう」
「そこの女。後で口をきけなくします。それに人間ではありません。人間如きに私をどうこうできる力はありませんので」
頼むから普通に会話して欲しいな……
「……魔王、ですわね」
ウィラが深刻そうな顔をする。
「そうです。黄緑色の髪をした小生意気な男でした。ダンジョンの主となり人間を殺せ、と。唐突に住処に乗り込んで来たかと思えば、無礼な振る舞いをした挙句ダンジョンに私を封じた……今思い出しても腸が煮えくり返りそうです」
「ウィラさん、魔王って以前ウィラさん達が撃退したって言ってた、あの?」
「えぇ。この世界に存在する魔王は四人。強大な力を持ちつつも、互いに不可侵を約束し、長年争うことはなかったのですが、近年隣国のネオという魔王がラザ国にちょっかいをかけてきているのですわ」
「天空の剣パーティに思わぬ抵抗をされ、次の一手としてダンジョン攻めを……ってとこじゃろうか」
「いいえ。奴にとって私達人間は取るに足らない。実際手も足もでませんでしたわ。
侵略というより、私達が抵抗し戦っているのをゲーム感覚で楽しんでいるという感じですわね」
「うわ……ヤバいやつだね。近づかないようにしたいや」
「ナツ、お前忘れとるんか?」
「何が?」
「いや、忘れてるならそれでいいんじゃが……」
ガララ
露天に繋がる戸が開く。入ってきたのは小柄な少女、ユラ。以前温泉で命を助けた「魔女」の末裔。
その姿を見て、私が頭の隅に追いやっていた記憶が蘇った。
「魔王ネオ……水晶の予言」
露天にて立ち上る湯気の中、私の悲痛な叫び声が響き渡った。
面白かった!続きが気になる!という方は是非☆やいいね、フォローをお願い致します!執筆の励みになります。




