43話平穏に潜む魔王の影
不戦湯にて神獣と魔獣に温泉を用意してから王宮へ。無事、ダンジョン踏破の報告をすることが出来た。
ちなみにダンジョンは私達が外に出た瞬間崩れ去り、その跡地には金銀財宝が。すべて回収され後に働きに応じて配分されるらしい。
「これで我が国の平和は保たれた。感謝する。それでナツよ」
「は、はいっ」
せっかく目立たないようにキラの背後に隠れていたのに。私はコソコソと顔を出す。
「此度のダンジョンにて、全員の命を救ってくれたと聞いた」
「い、いえそれは、皆さんが頑張った結果たまたま私に役割みたいなものが回ってきたといいますか……温泉を見せただけなので」
「ダンジョンのボス、クリスタルフォックスという神獣は命乞いにも応じない冷徹な奴だと聞いていた。そんな神獣を貴様の温泉は虜にしたのだ。貴様はスキルだと言うが、女神の泉で間違いないだろう。よって、今後貴様の不戦湯を"王直属の風呂屋"とする」
「えっ」
「直ちに資金を提供しよう。施設を拡大し我の専用浴槽を作れ。よいな?」
有無を言わさぬ視線。私は苦笑いを浮かべながら承諾する他なかった。
◇◇◇
かくして不戦湯はダンジョンクリアの報酬と王命により施設を拡大。さらに「王が気に入って通っている」というお墨付きにより――
「大人一人お願いします!」
「こっちは五枚!」
「なぁコーヒー牛乳なくなってんだけど……」
とまぁ大繁盛。見事、魔獣と冒険者で溢れかえる人気銭湯になったのだ。
「すごい儲かりようじゃのぅ。売れるとは思っとったが、ここまでとはなぁ」
「怪しいとか言われて避けられてた時が懐かしいもんだぜ!」
「確かに……でもこの人数じゃヤバいなぁ。番台に二人くらい雇いたいとこだよね」
「それこそ王に相談じゃなぁ。強くて信頼できる奴を派遣して貰えるじゃろう。わらわが伝えといてやる」
「ありがとうリンファ〜」
疲労感に伸びをする。忙しいのは商売としてはいい事だがもう少しのんびりやりたいものだ。
コトッ
目の前に置かれたのはトロトロ卵の親子丼。ぐぅと私の腹が音を立てる。
「わ、美味しそう!これシャルナが作ったの?!」
調理人はシャルナだ。ダンジョンから出てあれやこれやバタついていたせいで、話すのが久しぶりな気がする。
「アタイにかかればこんなものパパっと作れるッスよ。アタイに働き口くれて、料理で稼げる。アンタには返しきれない恩があるっス」
「えへへ〜そんなそんな〜。コーヒー牛乳だけじゃなくて、最近はフルーツ牛乳も作ってくれたし充分売上に貢献してくれてるよ〜……それに、ダンジョンで護ってくれたでしょ?」
「いや、あれは……結局ナツまかせのハッタリみたいなものだったッス。寧ろ賭けに巻き込んで申し訳なかったッスよ……」
「私なんて腰抜けちゃって言葉も出なかったんだら、あのまま死んでたよ〜。シャルナのプレゼン、凄かったなぁ。賭けって言ってたけど、賭けたのはシャルナの命の方。クリスタルが当たっちゃう寸前だったもん」
「あ、あの時は必死で……」
「とにかくありがとう!シャルナのおかげで、こうして不戦湯も大きくなったよ〜」
「っ……はいッス……盗んじゃった罪滅ぼし……できてるッスかね?」
「あ、忘れてた!温泉泥棒!」
「あ〜しくった〜思い出させてしまったッス〜」
番台に響く笑い声。
柔らかなやり取りを従業員通路の影にて、キラとソラは静かに聞いていた。
「キラがあの子を庇ったからナツちゃんも皆も助かった。さすが僕の弟」
「ソラ……うるさい。そんなつもりで助けていない。体が勝手に動いただけだ。あんな泥棒女、俺はまだ許していない」
「うんうんっ。でも、ナツちゃんが大事にしてる人、大事にしたかったんでしょ?」
「……そんなんじゃねぇよ」
ダンジョンを経て訪れた平穏がこれからも続くように。双子勇者は口には出さずとも願うのだった。
ダンジョン攻略により、得た富と名声と絆。繁盛する不戦湯に浮かれる私はすっかり忘れていた。
いつぞやか予言されていた絶望の風景を――
◇◇◇
「ネオ様ネオ様〜!人間たちがクリスタルフォックスのダンジョンを攻略しちゃったみたいですんっ」
クリーム色の渦巻きツインテールを揺らす少女は、赤いカーペットが敷かれた長い廊下を走り回る。
"ネオ様"と呼ばれた男がゆっくりと振り返った。薄い黄緑色の短髪、長めの前髪の下で瞬きのない赤い瞳が少女を捉えた。
「ふぅん……人間の力じゃもう少しかかると思ってたが、ゲルガークソ勇者を派遣したのか?」
「いいぇ〜天空の剣パーティは東のダンジョン攻略で未だ手一杯〜雑魚冒険者達でクリアしちゃったみたいですん」
「Aランク如きがいくら束になった所で、クリスタルフォックスを倒せる訳がない。何か裏があるな。ニーシャ、アイハ」
「はいですん!」
「お呼びですか……」
ツインテールの少女は敬礼。その隣に突如として現れた水色髪の女は、右目を髪の毛で隠し根暗な表情だ。
「クリスタルフォックスのダンジョンを攻略した人間のことを調べろ」
「はーい!」
「……面倒臭い」
「そう言うなアイハ。人間たちはちょいちょい僕らが躾をしないと、つけあがっちゃうからね。たまぁに、お仕置しないとだ」
ネオは鋭い犬歯が生える口元を舌で舐った。




