37話酸性泉スプラッシュ
「おぉ……これが噂に名高い女神の泉……力が漲ってくるようだ!」
顔を見合わせる冒険者たち。鍛え上げられた筋肉が益々盛り上がっているのが分かり頼もしい限りである。
「ナツ様、といったな」
「ドラゴさん……」
いつの間にか「様」に昇進してる……
「あれだけ無礼を働いたにもかかわらず、我が部隊を癒し、強化してくれたこと。感謝に値する。約束しよう、このダンジョンを攻略した暁には報酬の大部分を貴方に捧げることを……」
「えっ?!い、いや、そんな!私はただ温泉出しただけで、戦うのは皆さんなんで!分業ってやつじゃないでしょうか?!」
「なんと器の広い……女神様のお心遣い、感謝痛み入ります。では、我が王直属冒険者の名において、ナツ様に傷一つ付けないこと、お約束申し上げます!」
温泉に入ると、皆軒並みこんな感じになっちゃうな。ま、レベルや強さがものを言うのの世界じゃ当たり前といえば当たり前か……
「流石だな。ナツ"様"」
「ラーちゃんやめてよ……」
「あぁ。馬鹿共がナツ様の正しさと良さをやっと理解してくれて良かった。ダンジョンも恐らく残り少ない。今日で攻略したいところだ」
「もう?もっと一週間くらいかかるかと思ってた」
「いやいや〜ここからが長いんだよ。次の階で半日かかると見たね!」
「そんなに……」
◾︎◾︎◾︎
次の日
ソラが言っていたことの意味を嫌でも理解することになった。
「ギャォォオオッ」
けたたましい雄叫びを上げるドラゴン。どこからどう見てもボス級。に、囲まれていた。
「うわわわっ!デカイデカイ多い多い助けてぇええっ!」
トラップフィールドだったらしく、足を踏み入れた瞬間数十体のドラゴンが湧き出てきたのだ。ドラゴの部隊はあっという間に分散させられ、キラとソラはここへ来て初めて剣を抜いた。
振ってくるドラゴンの鉤爪。口から放たれる炎。素早い突進。
どれを取っても一撃必殺の技が私の鼻先を掠めていく。
「ナツ様!俺の後ろに!」
「キ――」
飛びかかってきたドラゴンの動きがやけにスローモーションに見える。鋭い牙。首から上が無くなる想像が頭を過ぎった。
死――
ザンッ
一刀両断。私が縮こまると同時に、ドラゴンの首が切断され嫌な音を立てて目の前に落ちる。
「数が多いな……おぃ、ソラ!こっちに近づけるな!」
「あいあいさーっ」
し、死ぬかと思った――!てか死んだのでは?!これが走馬灯?!
足元がふらつき上手く立って居られない。
「おぃナツ!しっかりしろ!気ぃ抜くと死んじまうぞ!」
「そんなこと言ったってぇ!!私にはドラゴンの攻撃のコの字も見えないんだって!気づいたら牙!」
「大丈夫だ!見えなくても360度全方位にいるだろ!」
「それはそう!」
「シャルナを見てみろ!一人だけ安全圏だぞ!」
シャルナはというと岩壁の隙間に身を潜め、極限まで気配を消しているでは無いか。
「ズルいッ!私もそこ入れて!」
「定員オーバーッス!」
「うぅ、これはもうキラソラに頑張って貰うしか……」
キラの背後で身を縮こまらせる。キラとソラがバッサバッサとドラゴンの首やら羽やらを切断していくが見れたものじゃない。
「ナツおめー、それでいいのか?守ってもらうだけで、いいのか?!」
「いいよ?!私温泉担当!キラソラは護衛担当!分業!」
「お前にだって武器があんだろ?」
「あのヘナチョコ酸性泉のこと?振りまいた所でコントロール無いから当たらないし仲間に当たっちゃうよ!」
「コントロールか……よしっ俺様に任せとけっ」
ラーウェルは空中で一回転すると私の頭の上に乗っかってきた。
「ナツ、掌をドラゴンに向けて構えろ!」
「えぇ……絶対当たんないけどなぁ」
震える手をドラゴン目掛けてかざす。やたら数が多いため射程圏内ではあるが、それでも動きが素早い上に他の冒険者達と乱闘中だ。
「俺が手を貸してやる!ナツ、お前は信じて放て!」
「え?え??」
ぶるり……
掌が熱い。頭の先から指の先まで水が流れ込んでくるような、不思議な感覚。
「ナツ!」
「えぇっ?!私には無理だって!」
「温泉で、皆のこと幸せにすんだろ?!」
「!……そんな、私には」
温泉で、皆のことを幸せに……皆のことを助けられる……?
「っ!」
震える足を踏ん張り、右手の指先まで力を込める。
「いいぞナツ!」
「うんっ!頑張れ私!!……いくよラーちゃん!」
「おうよ!」
「酸性泉!」
ありったけの力を込めて放った酸性泉は、波状に飛び出るがすぐさま球体となる。そして四方八方目掛け飛んで行ったと思えば、ドラゴンへ一、二、三……
「うわっ!凄いっなんで?」
「へっへーん。俺の水魔法と組み合わせて、コントロールしたんだ。ナツの酸性泉の威力と俺様のコントロールのコンビ技だな!」
「私も戦える……私も、戦える!!どんどん行くぞ!ラーちゃん!」
「よし来た!」
その日は本当に半日間、酸性泉スプラッシュ(後に命名)を撃ちまくることになった。




