33話ダンジョン攻略前途多難
「ほんっっとーに常々申し訳なかったッス……撒いたと思った親父がまさかここまで追いかけてくるとは」
酒気帯び親父はキラとソラによってお縄になった。
「離せクソガキが!俺を誰だと思ってやがる!ぶん殴るぞぉっ」
「誰なんだよ?言ってみろよ」
出た。ソラのダークモード。男の腕を強く握りしめながらの低い声に、男も言葉に詰まる。
少しは酔いも冷めたかな……
「俺この人衛兵に押し付けてくるね〜ん」
「ありがとう。こういう時は頼りになるなぁ」
「ナツも懲りんな。好きにしろとは思うが、わらわは助けてやらんぞ」
「う、うん……」
「人というものはそう簡単に代われん。奴は確かに根っからの悪党じゃないじゃろうが、これまでの生きる術が盗賊しかなかったのじゃ。お主が気に病むことでは無い」
「……ん、ふふ」
番台に頬杖をつくリンファに背を預ける。
「何を笑っておるのじゃ」
「いーや……優しいなって思ってさ」
「やかましい。わらわの仕事先がなくなったら困るだけじゃ」
「はいはい。まぁでも、確かに気をつけなきゃだね。いつ裏切られてもいい覚悟、キメとく」
「お主は本当に馬鹿じゃのぅ」
◾︎◾︎◾︎
ダンジョン攻略、前夜。女湯。
「はぁ……」
「さっきからデケェ溜息ばっかりじゃねぇか。いい加減腹くくれよ」
湯気の立ち上る天井を見つめながら、ム、と不貞腐れる。
「私の戦闘力の無さはラーちゃんが一番知ってるでしょ?」
「だからって毎夜毎夜女湯に連れ込まれて愚痴られる俺の身にもなれよ」
「それは、ごめんだけど……ホントに怖いし嫌なんだもん。私は銭湯でのんびりスローライフをしたかっただけなのにさぁ」
「思えば随分話がデカくなっあもんだな。最初は怪しいとか胡散臭いとか言われてたのに、今や女神の泉ときた」
「笑い事じゃないよぉ……銭湯はじめてから厄介事ばっかり」
ちゃぷ。温かい湯船で頬を抑え己を慰める。
「んじゃあ、銭湯やんない方が良かったか?」
ラーウェルの問いかけにハタ、と我に返る。頭をよぎるのは天空の剣パーティやリンファ、ソラ、キラの顔。答えは決まっている。
「そんな事ないよ。銭湯って言うか、温泉があるから私の異世界生活、こんなに楽しんだから」
「それが聞けて安心したぜ!ダンジョン攻略もサクッと終わらせて褒美の金で、もっとでっけー銭湯作ろうぜ!」
「そうだね……こうなったらヤケクソ!温泉パワーでダンジョン攻略!キメるぞ〜!」
お湯を散らしながら拳を突き上げたのだった。
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翌日、リンファに見送られダンジョン攻略へ。
「うわ……凄い人数だね。前が見えないや」
「討伐隊ですからね。俺たちはナツ様の護衛ですが、これだけの人数なら剣を抜くことも無いかもしれません」
「そうであって欲しいなぁ」
「おぃ、そこの女」
飛び込んできた鋭い声。怒気を含んでいるのは明白で、自然と足を止めてしまう。
顔を上げれば金の短髪と右目に傷のある百戦錬磨の騎士が、私を睨みつけていた。
「わ、私?」
「あぁ。貴様以外誰がいる?この場違いの庶民女が」
場違い。庶民女。
名前も知らない騎士に初っ端から嫌われているらしい。
「僕は討伐隊第四班を率いるドラゴ=アラルフ。王よりアラルフの姓を賜りし、王直属の騎士だ」
「はぁ……えっと、私、何かやらかしましたか……?」
「貴様!僕を愚弄するか?僕を愚弄するということは、王を愚弄するのと同義!この場で斬首されたいのかァ?」
えぇ〜?!?!誰何怖?!
「おぃ。貴様こそ無礼なるぞ。ナツ様は追うより直々にダンジョン攻略依頼を承った冒険者。王を愚弄しているのはそちらでは?」
キラが私の前に庇うように立つ。その場に緊張感がはしった。
「ええぃ黙れ!僕を騙そうとしてもそうはいかない。僕は歴戦のダンジョン攻略者。この女が低レベルでなんの能力も持ち合わせていないのに、この討伐隊に紛れ込んでいるのはもうバレている!」
うーん。大体あってる。戦闘員としては何の役にも立たないどころか、護ってもらう立場て足引っ張るからなぁ。てか王様……説明しといてよ……
「さらに先程からコソコソと、ネズミの匂いもするな。他の冒険者は騙せても、僕の目からは逃れられんぞ」
ソラの背後で擬態していたシャルナが肩を跳ねさせる。スキルを使っているのか私もシャルナの気配を見失っていたというのに。
この騎士さん。本物だ
「ナツ様もクソ鼠も王が許可した討伐隊の一人だ。依頼書もこの通り。それでもまだ疑うと言うなら、ここで貴様を血祭りにあげることも厭わない。俺の主を二度と馬鹿にするな」
きゃーー!キラ言い過ぎ!!私そんな高貴じゃないから!ダンジョン入る前に乱闘始まっちゃう?!
「……フン。ダンジョンに入れば、すぐ化けの皮が剥がれることよ。もっとも、逃げ出したいと思う頃には死んでいるだろうが」
騎士は怒気を収めると、再度ダンジョンへ向かって歩き出す。胸を撫で下ろすが、入る前から心労が激しい。
「生きて帰れるかなぁ……」
目の前にそびえ立つ天をも貫きそうなダンジョンを前に、憂鬱なため息が零れた。




