32話ダンジョンイヤイヤ期
「ぶはぁ……やっと王様……帰ってくれた」
休憩用の畳の上に大の字になる。激しい運動をした訳でもないのに、二、三年年老いた気さえする。
「おぅナツ!久しぶりだな!立派な銭湯が開けてるじゃないか!」
覗き込んでくるゲルガー。せっかく久しぶりに"天空の剣"パーティ達とも出会えたのに、思い出話に花を咲かせる気力もない。
「ゲルガーさん……今大きな声はちょっと……」
「ふふ、初めて温泉に入れていただいた時から有名になるとは思っていましたが、まさか王にまで気にいられてしまうなんて。ダンジョン攻略が成功したら、きっと国一のお店になりますわね」
金髪を靡かせるウィラ。相変わらず嫋やかな胸と美貌が麗しい限りだ。
「たまたま儂らがダンジョンから帰ったところで良かったのぅ。誤解も解けたようじゃし」
今日もほっこり、温泉の虜となったグランツ。
「いや本当にソレです……ありがとうございました。また助けていただいて」
「なんの。ナツ殿の力になれて嬉しいですよ。こうしてまた温泉に浸かれましたからね」
眼鏡を押し上げるユンベル。
「はい……良かったは良かったんですがなんでこんなことに……ウィラさん達はもう次の依頼へ?」
「えぇそうなの。本当は南のダンジョンへ向かいたかったのだけれど、東のダンジョンの方が死者が重なっていますから、そちらを最優先にと」
「ダンジョンってそんな乱立するものなんですね……」
「特にこのラザ国はダンジョン生産世界一だ。冒険者になりたくば、まずラザ国へ迎えと言われるほどにな!敵国からは要塞にもなるし、シュバルツ王は相当頭がキレる。ナツも安心して討伐に行くといいぞ!五割は死なん!」
「五割!!」
私の頭が「行きたくない」で埋め尽くされている間に、天空の剣パーティとはまたお別れの時間だ。
「毎回お別れが早いですね……」
「そうじゃなぁ。また近いうちに鍋を囲み、温泉に浸かりたいものじゃ」
「ごめんなさいね。Sランクパーティはこの国に三組しか存在しないの。国や人々を守るため、働かなくてはね。でもありがとう。またナツの温泉に癒されたわ」
「またなナツ!ダンジョンから生きて戻ったら、また会おう!」
縁起でもない……
◾︎◾︎◾︎
天空の剣パーティを見送り、再び大きなため息。
「ナツ、どうすんだぁ?」
肩乗りラーウェル。再度ベソをかきたい気分だ。
「ほんとに……ダンジョンなんて行きたくないよォ……」
「だぁいじょぶだいじょぶ、僕たちが守るしさ、討伐隊組むんでしょ?魔物の姿を見ることも無いんじゃない?」
「あぁ。ナツ様には指一本触れさせん」
「ソラとキラが着いていくとなると、留守番はわらわだけか?ラーウェルも使い魔じゃし着いていくじゃろう?」
「リンファ残ってても温泉入れられるの私だけだし経営はできなくない?」
「そうじゃな。気ままに増築したり何か作って欲しいものがあったら作っておいてやるぞ」
「助かる……じゃあダンジョンに行くのは私とラーウェルと、キラとソラ……シャルナは――」
バンッ
扉が壊れんばかりの勢いで銭湯に転がり込み、肩で息をする女。
噂をすれば、である。
「シャ〜ル〜ナァアア!」
「な、なんスか?!」
ハァハァと呼吸の整わないシャルナの胸ぐらを掴む。
「元はと言えば全部シャルナのせいだからね!詐欺師として処刑される寸前だったし、助かったと思ったらダンジョンに連れてかれる事になったし!もー!!クビ!」
「えぇっ?!な、何があったんスか?!」
状況説明中……
「な、なるほどッス……確かにそれは、アタイのせいだ……本当に申し訳なかったッス!!」
勢いよく土下座をするシャルナ。
「もういいよぉ……怒っても仕方ないし。それよりお詫びにシャルナもダンジョン攻略着いてきて」
「ナツ様。それは危険では?きっとダンジョンの宝箱をくすねたり、いざとなったら逃げ出すに決まっています」
ダンジョンで得た物は王様に献上し、そこから配当や権力が与えられたりするらしい。ダンジョン拾得物を盗む=死罪に値するのだ。
キラの言葉にシャルナは悲しげに眉を寄せる。
(信じてあげたいけど、キラの言うことも最もだしなぁ)
「シャルナのことはダンジョンに連れていくよ。シャルナ、そこで私がシャルナを信じるに値する人物だって証明してよ。嫌なら行かなくてもいい。でも私、シャルナのコーヒー牛乳飲んで思うんだ。この人は裏切らないって」
「ナツ……」
瞳を潤ませるシャルナ。
「何言ってんだコイツ」
「放っておけ。コイツが温泉に関わるものとなると、馬鹿になるのは今に始まったことじゃなかろう」
「失敬な。私の見る目に間違いなし!よし、すっごく嫌だけどダンジョン攻略の準備しよっか。ところでシャルナ、なんでそんな焦ってたの?なんか、何かから逃げてるみたいな――」
ガンッ
今度こそ扉が壊れた。入ってきたのは酒瓶を手にした男。
「シャルナァ!金よこせつっただろうが!」
「クソ親父っ!なんでここが……っ」
顔を真っ赤にした巨漢。酒瓶を振り回し八つ当たりのように銭湯の備品に当たり散らす。シャルナが言っていた虐待クソ親父だ。
だから――
「シャルナ〜……"不戦湯"だっつってんだろ!!」
私の特大のツッコミが月夜に響いた。




