31話温泉がダンジョンを引き寄せた件
「え……だ、ダンジョンってなんですか?」
「ダンジョンとは、自然発生した異空間。そこでは何十階、時には何百階にも及ぶフロアが存在し、自然発生した魔物たちを突破しないと下にはいけない。ダンジョンをクリアすれば巨万の富が手に入るが、放っておけば周囲の魔物が増え、凶暴化していくという厄介な代物だ」
「あ、いえ……ええと、なんで私をそのダンジョンへ?私は温泉は出せますが戦闘力は並以下といいますか」
「お主には戦闘ではなく、回復やレベルアップを担当して欲しい。この温泉とやら、浸かればみるみるうちに疲労が回復していく。ダンジョンで傷ついた仲間や何十階にも及ぶダンジョン生活で疲弊している者たちの癒しとなるだろう」
「い、いえそんな、買い被りすぎですよ〜……」
絶対、絶対ヤダ!森からたまに襲ってくるゴブリンでさえ嫌なのに!わざわざゴブリンが湧き出てくるダンジョンなんか行きたくないんだけど!……でも、万が一にも断ったりしたら……
「最近ラザ国の南に大きめのダンジョンが出現した。討伐に行けるパーティがおらず先日門の前までキングボアが近づいてきたのだ。ナツ、討伐隊に加われ」
真っ直ぐ揺らがない蒼い瞳。
お願いというより命令……断ったら首吹っ飛ぶだろうなぁ。トホホ……
「分かりました。ちなみに……そのダンジョンって冒険者のランクはいかがなもので……?」
「Aランク冒険者が恐らく中層階と思わしき所まで到達したが、疲労により断念した。本当はSランクのゲルガー達を送り込みたいのだが、東のダンジョンの方が急を要するものでな」
ゲルガー達を見れば陽気に手を振られる。しかもゲルガーは既に半裸。王の手前抑えているのだろうが、温泉に入りたいのが見え見えである。
Aランクのダンジョンってことはソラとかキラが本気出してトントンの魔物がいるってことだよね……私即死では……?どうにか躱せないかな。仮病とか?温泉出せなくなりました……は、無理だし。うわぁ……嫌すぎる。逃げたい!
「出立は一週間後。Aランク、Bランクの冒険者をできる限り募っておく。それからナツ」
「は、はいっ!」
「今宵の温泉、大変心地のいいものだった。詐欺の罪は無実だったことも証明されたことだ。定期的に入りに来てもいいだろうか?勿論礼は弾む。さらにダンジョン攻略が成功すれば、この"不戦湯"とやら、増築に手を貸そう」
「あ……き、気に入って頂けて嬉しいです。増築、も、はい。助かります。生きて帰れれば、ですけど……」
ガクリと肩を落とす。シュバルツ王に温泉を気に入って貰えて一安心も束の間、新たな依頼で頭がいっぱいだ。
◾︎◾︎◾︎
温泉から上がると巨大な皿に並々のコーヒーが注がれており、それを――
ペチャペチッペチャッ
「むう!美味いぞ!美味すぎる!!なんだこの蕩けるような甘味は?!」
「温まった体に沁みるじゃねぇか!いくらでもイケそうだぜ!」
魔獣達がガブ飲みしていた。随分がっついたのだろう口の周りが茶色い髭まみれだ。
「一瓶金貨1枚じゃ〜今日分は残り10本じゃぞ〜」
「はぁあ……ほんと、なんでこんなことに」
「やったなナツ!コーヒー牛乳の売れ行きも良いし、ダンジョン踏破したら銭湯デカくしてくれるってよ!」
「ふぇ……」
「あ」
逃げようとしたラーウェルを引っ掴んでだきしめる。
「うわーーん!怖いすぎる嫌すぎる〜!ラーちゃんどうしよぉ〜」
「ぎゃっ!な、ナツてめぇ鼻水付けんなよ!どうするもこうするも、行くしかねぇだろ?Aランク冒険者集めるつってたし、ナツが戦うことはねぇって」
「分かんないじゃん!もしかしたら得体の知れない大ボスが潜んでて、不足の自体に目の前で散りゆく冒険者……私は最後一人取り残されて、足から生きたまま食われるんだぁああ!」
「お、おぅ。凄い想像力だな。安心しろよ。ダンジョン入る時はテレポートの小瓶が貰える。命があぶねー時に壊せば、一瞬で地上だぜ」
「命が危ない時!来るんだやっぱり!来るんだー!」
「ぐぁあっ!絞め殺されるっ!!」
「静かにせんかナツ。まだ王の御前じゃぞ。首を跳ねられたいのか?」
ハッとしてぐったりしたラーウェルを抱きしめたまま見渡す。
王は畳の上に座り、上品なグラスにてコーヒー牛乳を灯りに透かしているではないか。
ワインかよ……
グラスをゆっくり回し、匂いを確かめ、口をつける。
ドキドキ。不戦湯メンバーは王の反応に身構える。
「ふぅ……大変美味である。ナツ、こちらを王宮へ献上しろ」
「は、はい……」
もうヤダ……私は気ままに銭湯経営がしたかったのに、女神にされた上にダンジョン攻略に駆り出されるなんて……
あらゆる珍獣達に囲まれコーヒー牛乳を嗜む王様。異様な光景に待ち受けるダンジョン攻略。
スキル【温泉】……やっぱりヤバいやつ引き寄せがちでは……?




