30話魔獣と国王の温泉録
「今のが温泉か?魔獣の出汁に浸かるとは斬新な」
「ちっ違います!確かに私の温泉は"冒険者も魔獣もおいでませ!"っていうキャッチコピーでやってるんですが……」
魔獣ギッチギチすぎない?!なんで?!
「しょ、少々お待ちください」
隙間から男湯に入り、もう一度中を確認。
「えぇ……魔獣しかいないんだけど、なんで?」
「おぉナツではないか」
大浴場の淵に顎を乗せ寛いでいるレオクシス。
「またお前か……」
「なぬ?」
「いえ、なんでも。あのこの魔獣パラダイスはどういうことですか?」
「最近我の毛並みの調子やレベルの上がり方に気がついた奴がおってな。入りたいとうるさかったのだ。だからここを案内した。勿論供物もしっかり持たせてな?貴様は金が好きであろう?」
「人を金の亡者みたいに言わないでくださいよ……あの、今日王様が来てるんですよね」
「王?人間のか?」
「はい。なので……できれば皆さんに譲って頂きたいなと……」
「なっ!人間のために我々に温泉から出ていけと言うのか?!」
「王様が出るまでで良いんです。次の温泉タダにしますからっ!私の首がかかってるんで何卒!」
「ならぬわ!先に入っていたのは我であるのに人間の王如きに先を譲るなど承服しかねるる!!」
ガララッ
その時、勢いよく銭湯の扉が開く。見れば湯浴みを着た王様が静かな瞳をして立っていた。
王様温泉入る気満々――?!いやいや流石に魔獣だらけの命の保証ないとこに王様入れるわけにはいかないでしょ!
「あ、あのっちょっと今、温泉用意するので……待ってて――」
「これ以上我に待てと申すか?王たるこの俺を」
ギロリ
鋭い瞳に睨まれた瞬間、首筋がヒヤリとした。逆らう全は無い。
「イ、イエ……どうぞ」
王様に続き、ガシャガシャと甲冑をぶつかり合わせながら騎士たちも続く。男湯は、大勢の魔獣と一人の男、そして騎士達でいっぱいというなんともカオスな光景。
「お、おぃナツ。これはどういうことじゃ?」
リンファに腕を引かれる。
「こっちが聞きたいよ……魔獣がこんなに押し寄せてるとか聞いてない」
「それは……わらわが許可したのもあってだな」
「は?!」
「お主が客が来ない来ないと喚いておったじゃろう!じゃからレオクシスがほかの魔獣も良いかって聞かれた時、良しとしたんじゃ!」
「う〜〜……でも、よりにもよってこのタイミングで被るなんて……うっかり王様が魔獣に食われたりなんかしたら……」
「あぁ、間違いなく戦争になるじゃろうな」
戦争……私の温泉が原因でラザ国と魔獣、ひいては人間VS魔獣の大戦争勃発……?!
「ううっ……祈るしかない」
銭湯メンバー達は揃って手を組み、祈ることしかできなかった。
我々庶民がヒヤヒヤしているなんて露知らず。王様はレオクシスの居座る大浴場へ足をつける。
「おぃ人間」
レオクシスの口から発された言葉に心臓が引き攣る。
「掛け湯はどうした?」
「……我はラザ国第7代国王、シュバルツ・ラザ。我のやることになんぞ、不満か?」
「掛け湯はここの銭湯のルール。神聖なる湯。故に体を清めて入れ馬鹿者が」
ひぃいっ!レオクシスのバカァ!戦争待ったなし!不戦湯改めて戦闘湯……
「ええぃ獣め!王に無礼なるぞ!」
騎士達が槍を構えはじめ、もうダメかもしれないと目の前が真っ暗に。
「ナツ!」
フラついた所をリンファに支えられた。
一触即発か。そう思われたヒリつきを切り裂いたのは王の右手。騎士たちを沈めるように突き出す。
「それは知らなんだ。掛け湯とは具体的にどうするのだ?」
「む……初めてか。ならば仕方がない。そこの桶という道具で湯を体にかけろ。数回な」
「……」
王はレオクシスの指示に従い湯で体を洗い流す。
暴君かと思ったら器の広い方だった……!流石は一国の主!
「こんなものか。それで次は?」
「次はない。気ままに浸かるのみよ」
王はレオクシスとその妻が浸かる大浴場へと足をつけ、ゆっくりと体を沈めたのだった。
誰もが息を飲み、緊張に拳を握りしめたであろう。男湯内は湯気で暑いはずなのに、背中を流れる汗は冷たい。
「なんと……」
作り物のように精巧だった王の表情が崩れる。目を大きく開き、小さな口からは長いため息が――
「これが"温泉"か。すばらしいな」
両足の力が一気に抜けた。
「お主に頼むとするか、女神ナツ。ダンジョン攻略依頼を受けてくれないか?」
「は――」
何だって――?!?!




