第五話 拝啓、大人になってしまった少女へ
次の日、翔琉は早めに家を出て鳥居へと向かった。
「今日も行くのか?」
祖父が話しかけてきた。
「うん。友達が心配でさ。」
そう言って照れくさそうに翔琉は笑った。
「そうか。気を付けていっておいで」
「わかった。行ってきます」
「あらあら、あの子あんなに積極的に友達と遊ぶなんてねぇ」
「そうでもないさ。ばあさん。見てごらん」
そう言って祖父は神社の裏にまとめられたごみ袋をさした。
「あらまぁ。こんな早くに出るために掃除まで」
「まだまだ、気を遣わせてしまっておるのぉ」
「私たちも頑張らないとですね」
祖母は穏やかに笑う。
そよ風が神社に吹いた。
木々が揺れている。
翔琉を送り出すかのように。
(今日も平和だな)
「さて、朝食にしましょうかじいさん」
「そうだな、ばあさん。ここは冷えるから早く中へ入ろう」
鳥居をくぐった先はいつも通りの風景。だが人気はない。
「クラー?」
そう呼びながら、進んだ。
だがその部屋にはクラはいなかった。
嫌な予感がした。
扉を開けて下の階へと降りる。
(いた、、、)
翔琉は安堵した。
「クラ」
「翔琉!?」
クラは驚いたように声を上げた。
「なんで来たの?」
そして、怪訝そうな顔をされた。
「そんな迷惑そうにするな。傷つくなぁ」
「嘘つけ」
翔琉の言葉をすぐにクラは返した。
「今日は私、君の相手できないよ?」
「なんで?」
「”死神”の仕事だよ」
そう言って仮面を被る。
「なんだそれ」
「顔を隠すんだよ」
「死神の顔われてるのに?」
「いーの」
クラはそう言って仮面を被った。
「さて、私は行くから翔琉は今日は帰りな」
いつにもまして淡々としていた。
「絶対に触らないでね?」
「振りか?」
「ほんとに」
真剣な顔をしていた。
クラは何かを呟いた。クラの足元に魔法陣が浮かび上がる。
(俺は、お前が動揺した理由を知りたんだけどな)
翔琉は少し考えた。
「ごめんな。クラ」
翔琉はクラに飛びついた。
「なっ!」
二人は転移した。
レンガ造りの薄暗い建物の中に来た。
「ばか!」
クラは翔琉を引きはがした。
「いてて、、」
翔琉はそれで後ろに倒れた。
「戻すから少し待って」
「やだ」
「わがまま言わないの」
「やだ」
「ふざけんn」
クラは黙り込み、角から顔を出した。
「そこに誰かいるのか?」
急に男の声が聞こえた。
クラは翔琉に狐の面を渡した。
「せめてそれを被って頼むから無駄なことしないでよ」
「わかった」
「さて、行きますか」
クラはふっと息を吐いて。鎌を出した。
「いるよ!」
男の前に姿を現した。
「侵入者d」
男が大声を出そうとした瞬間にクラは男の首に鎌を構えた。
「だまれ」
「ひっ」
男は固まった。
「ここで異世界人の召喚を行っているという情報が入っている。本当だな」
「は、、、わかりません」
男は震える声で答える。
「奴らの位置まで案内しろ」
「は、、はひっ」
クラは翔琉の方を一瞥した。
(ついてこいの意味だろう)
クラは目の端で多数の光を見た。
クラは翔琉の方へ近づいた。
キンッ
「ガハッ」
目の前で案内していた。男が倒れた。
翔琉はその場で固まった。
ー翔琉。もう大丈夫よ。
手で真っ赤に染まったその手で抱きしめられた。
(何の記憶だ、、、)
よくわからない喪失感と、それ以上の気持ち悪さ。
「ううわあああああああああああ!」
翔琉は座り込んで叫んだ。
「誰だ」
クラはそれを横目に魔法が来た方を見た。
「驚きました。死神様ですか」
「そうだ。仲間割れか?」
「裏切り者を殺すのは当たり前でしょう」
「そうか。異世界人を召喚しているのは本当か?」
「本当ですよ。」
スーツをびしっと構えた男は、後ろを振り返る。
そこには白いワンピースを着た。黒髪の少女が立っていた。
「私たちが呼び出した中での最高傑作のヤヨイです。」
「ほかに仲間はいないのか?」
「居ますよ。周り見てください」
男が指を鳴らすと、周りに急に空間がゆがんで多くの人が出てきた。
「これで全員か?」
「さぁ。貴方今日はその付き添いがいて助かりました。」
そう言ってその男は翔琉の方を見た。
「こいつは狙うな」
「それはできない相談ですね」
「そうか。残念だ」
「行きなさい。ヤヨイ」
「はい。承知しました。」
「もうちょい。聞き出せると思ったのに」
クラは一瞬で男の前に移動した。
「お前も異世界へいざなってあげよう」
クラは面をつけたまま鎌を上に掲げた。
その勢いに負けて男は後ずさった。
「ヤヨイ!待て!私を守れ」
その言葉に翔琉に向かっていたヤヨイは動きを止めて振り返った。
「死神の力なめてんじゃねぇぞ」
クラは一瞬でその場を呑み込むような気迫を出した。
そして、
「ーーー、、、。」
何かを唱えた。
その場にいた全員が倒れた。
翔琉とヤヨイだけは倒れなかった。
翔琉はうなだれたまま動かない。
クラはヤヨイと呼ばれる少女の方へ向かう。
そして首に鎌を構えた。
「元の世界へ帰る?死ぬ?」
冷たい声で聞いた。
(まだ、小さい少女だ。可能なら生かしてあげたい。)
そんな、願いなんて口に出せはしないけど。
「帰りたくは、、ないです」
目を下に向けて小さく答えた。
「そっか」
クラは鎌を動かした。
「、、、待て」
翔琉はクラの手を止めた。
「なに?」
「それは、ダメだ」
「これが仕事なの。仕方ないでしょ」
クラは苛立った声を出す。
「君にはわかんないよ。」
「そうだ。わかんない」
「じゃあ黙れよ!」
(なんでこの人は守ってくれてるのだろう。必要としてくれてる?)
ヤヨイは、わかんなかった。
そしてクラの服を引っ張った。
「なに?」
「私は、生きてていいんですか?」
(生まれたときから、必要とされていないことだけはわかっていた)
クラは鎌を下ろせなかった。
(仮面をつけててよかった。)
仮面の下で唇を強く噛みしめた。
「興覚めだ。帰るぞ」
クラは振り返った。
翔琉も立ち上がってクラの方へ行く。
(やっぱ違ったか)
ヤヨイは二人が歩き始めたのを見て少し寂しくなった。
「なにしてんの?こっちだよ。」
「はっはい!」
ヤヨイは、驚いたように声を上げた。
「はぁ、暑いな」
翔琉が仮面を外した。クラも続けて外す。
翔琉はクラの顔を見て、少し驚いた。
仮面を外したクラの顔には穏やかな笑みがあった。
外に出るとちょうど正午ぐらいでとても日差しが強かった。
「翔琉。あれが私の仕事だよ」
クラは翔琉にトラウマ級の状況を作り出した。
(あの瞬間本当は守ることもできた)
異世界転移魔法に関わった全ての者に罰を与える必要がある。
もし、あの時守ったとしても結果は変わらなかった。
だから、クラは翔琉にトラウマを与えるため、わざと死なせた。
「そうか」
確かに、あの瞬間とてつもない恐怖を感じたし今も手が震えている。
(だけど、、、)
「離れる気はないからな?」
「え?」
クラは驚いたような声を出した。
「お前も怖いんだろ。一人にさせないさ。」
ー友達だから。
そこだけは声に出なかった。
クラは、意外そうな顔をした。
「カッコつけんな。きもちわりぃ」
「言われすぎじゃない?」
「ふふっ」
ヤヨイが笑った。
「え?そんなに?」
翔琉が心外みたいに思った。
「仲がとてもいいのですね。」
そして、ヤヨイは小さく口を開いた。
「もし、殺すのが苦手なら、私が変わりますよ」
10歳くらいの子供なのに、その言葉には妙な説得力があった。
「まさか、、」
翔琉が口を開いた瞬間、クラが翔琉の口を押えた。
(それだけは言うな)
目でそう必死に伝えた。
グルル、、
ヤヨイのお腹が鳴った。
ヤヨイは顔を赤くして。
「すみません。」
そう言った。
「さて、飯にでもしようか」
「俺は飲み物だけでいいよ」
(あんなん見せられて飯食えねぇよ)
「そうですねぇ」
「二日連続のお越しありがとうございます!!!」
昨日の町の領主の元へ来た。
領主は翔琉を引っ張った。
「少々使徒様お借りしますね」
「わかった」
クラがそう言ったと同時に、にっこにこの城主は翔琉を連れ去った。
「なんでまた来てんですか!!!」
領主は廊下で小さな声で問い詰めた。
「ここの料理がおいしくてさ、、へへっ」
翔琉もここに来るのは予想外で苦笑いをした。
「止めてくださいよぉぉぉ」
領主にとって死神は恐怖の対象なのだろう。
「すまねぇ」
「ほんとに!住み着かれたりしたら経済回んなくなるんで!」
「それは嫌いってこと?」
「そうではなくてですね!!」
逆鱗に触れるまいと必死によけている。
ギィィィ
クラが扉を開いた。
「何の話をしてんの?」
「いやぁ、死神様が素敵で仕方ないですって」
そう言って領主は必死に取り繕った。
目では翔琉に
(絶対言うなと合図をしている。)
「どうしたんだ?」
「あーご飯食べ終わったから。城に戻ろうかと」
「おかえりでございますか!」
「えーもうちょいゆっくりしよーよ」
翔琉はにやけ顔で領主を見る。
「左様でございますか」
そう言ってへこへこしているが目は確実に翔琉を睨んでいた。
(ごめんて)
「死神様達はご飯食べてないのに私だけご馳走になってすみません。」
「気にしなくていいよ」
「ただ飯だしな」
(クラも食べてないのか)
「あと、死神様ってのはやめてね。私はクラ・ウィーレイン。名前で呼んで」
「承知しました。クラ様」
見た目とは似つかわしい言葉遣いに二人は違和感をすごく感じていた。
「さ、私の城に案内するよ」
そう言って呪文を唱え、城に戻った。
「さて、今日から君の家はここだね」
そういってクラは城を指さした。
「いいのですか?」
「広すぎて部屋あまりまくりだから全然いいよ」
「家具とかはあるのか?」
「あるよ。もともと使用人が何人もいたしね」
だが、どの部屋もほこりまみれだった。
「、、、掃除しますか」
「いえいえ。私がやりますので大丈夫です!」
ヤヨイが、止めに入った。
「いーの。こういうのはみんなでやった方が楽しいの」
「お前の楽しそうな顔見たことないけどな」
「黙ろうか」
翔琉は営業スマイルをした。
「こわっ」
掃除が終わるころには、日もくれていた。
「つかれたー」
「腹減った」
二人で倒れている。
「では、食事にでもしましょうか」
「食料ないぞ?」
「大丈夫です。包丁だけもらっていいですか」
クラが渡す。
「二階でお待ちください。あと調味料は使わせていただきますね。」
そう言って笑顔で外に出た。
ドォォォォン
外から大きな音が聞こえた。
そして、包丁で何かを切る音が聞こえてきた。
「お前、大丈夫か?」
翔琉が心配そうに言う。
「なにが?」
「いや、仕事の事」
「うん。いつもよりも大丈夫」
(人を殺して大丈夫なわけがない)
そう思い翔琉は心配していた。
「ヤヨイのこと。どうするんだ」
「望むならここに置いておく。それか。連れてってくれないか?」
「やめておいた方がいいと思うぞ」
あんなに大人びた少女は見たことがない。
そこからは憶測にすぎないが、異世界にトラウマがあるのかもしれない。
「わかってるよ」
コンッコンッ
「皆さん夕食の準備ができました。」
「「ありがと」」
二人は下の階に行く。
「スープとステーキです。主食なのですが、卵が入手できなくて、、、」
「うまそぉ」
「すごすぎるだろ」
主食がないことにすら気づかない二人の姿を見て、ヤヨイは嬉しそうに笑う。
「ヤヨイは食べないのか?」
「いえ、私は、、」
「主人の命令。席について食べなさい」
「うっわ権力行使こわぁ」
翔琉が茶化すとクラは翔琉を睨んだ。
「いいのですか?」
「いいんだよ」
3人でご飯を食べ始めた。
「おいしいです。すごく。」
翔琉は涙目のヤヨイを見た。
(昨日のクラみたい)
「ね。すごくおいしい。」
クラも涙目である。
「あはは」
その状況がおかしすぎて、翔琉は笑ってしまった。
「急にどうした?きもいぞ?」
「言いすぎじゃない?いや、美味しすぎてさ」
夕食の後片付けをみんなで済ませて、ダラダラした。
その間も、ヤヨイはせかせか掃除とかをしていたので、クラが部屋に戻って休むように命令した。
「さーて、俺も帰るかー」
「そうか」
帰ろうと思ったが、少し思い出して立ち止まった。
「なぁ、クラ」
「なに?」
「紙飛行機の話していいか?こっちの世界のやつ」
最初来たときに見た、紙飛行機の山。
「、、、いいよ」
「そいつらに会いに行ってみないか?」
「やだよ。私は殺すのは嫌いなんだ」
「殺すためじゃなくて」
「だとしても、、、」
「お願い」
翔琉が真剣な顔でクラを見た。
(今日はこいつのおかげで、一人だけ救えたしな、、、)
クラは諦めたような顔をした。
「わかった。」
その言葉に、翔琉は笑みを浮かべた。
「ありがとう」
そう言って鳥居をくぐった。
「ただいま!」
「おう!遅かったな!」
「おかえり。翔琉ちゃん」
いつも祖父母は温かく迎えてくれる。
(俺にはこんなにあったかい帰る場所がある。だけど、クラ達には)
ベッドの上で一人考える。
やりたくない仕事をして、苦しんでそれを背負って一人で生きていたんだ。
紙飛行機の事は伝えられた。今日は十分だ。
ー拝啓、大人になってしまった少女へ
貴方が、何を抱えてどんな気持ちで生きているのかわかりません。
貴方が、どうなっていきたいのかわかりません。
だけど、いつかあなたが子供に戻れますようにー
ーアイドルになりたい!ー
その手紙を書いたキラキラした顔の少女。
(あのぐらい、未来に希望を抱いてほしい。)
(この選択が正しいかは、わからない。だけど、)
絶対、正しいって言わせてやる。
ベッドの上で拳を突き上げた。




