未来のこと
かたやまういです。
フィンとカランの将来の話
戦後が話のメインなので、戦前・戦時中はできるだけ軽くしたいのですが、なかなかうまくいきません。
ーーフィンとカランが軍の訓練施設に通い始めて、一年が経とうとしていた。
アーサーとレイはついこの間寮のある大きな軍施設に移っていき、フィンたちを可愛がってくれたうちの高校3年生たちも進学や就職のためどんどんとここを去っていく。
孤児院の兄姉が独り立ちしていくたびに感じていたのと似た寂しさが、フィンの胸の中に広がっていた。
「なあフィン〜。お前さあ、なんかやりたいこと言って」
午後の掃除をしながら感傷に浸っているフィンに、カランがなんの脈絡もなく言った。
「え?」
フィンは思わず聞き返す。
「学校の宿題で将来やりたい仕事、理由もつけて書けって。学年上がる前に総合の授業で発表するらしい」
だからなんか出して、とカランがせがむ。
何か出せと言われても、とフィンは困ったように眉尻を下げた。
「俺も、やりたいこととかよくわかんないよ」
フィンの答えに、カランがふーんと相槌を打つ。そして、なんでもないことのように続けて言った。
「ないんじゃなくてさ、周り困らせたくないから言わないだけじゃねーの」
「え……」
思わぬ一言に、フィンは動きが固まる。カランは箒で掃いたゴミを1箇所に集めながらつぶやいた。
「…俺は父親の事業継ぎますって書きたかったよ。みんな困るから言わないけどさ」
フィンはどう返事をすればいいか分からず、2人の間に沈黙が訪れる。
その気まずい空気を破るように、カランは明るく言った。
「でもさ、お前のやりたいことを俺が書くなら、誰も困らないじゃん?」
親戚も俺のこと引き取らなかった負い目があるし、上手いこと言えば金は出してくれると思うんだよ。
フィンと喧嘩をして以降、少しずつ自分の心に折り合いをつけていったカランは、あっけらかんと言った。
「な、聞かせろよ」
そう促されて、フィンは目を泳がせる。
「別にそんな、"なりたい"ってほどじゃないよ」
フィンはぎゅっと箒を握りしめた。
「いいじゃん、それでも」
カランは掃除用具入れのチリトリを取りながら、なんでもないことのように言う。
「ちょっと興味があるだけだし…」
フィンの背中がじっとり濡れた。
「いーから言ってみろって。宿題に書けりゃいいんだよ」
カランは若干呆れ声だ。けれど、宿題の材料を求めているという建前はフィンを少し安心させた。
「ほんとに、ただの"憧れ"だよ?全然、本気じゃないから」
誰にも言わないでよ、とフィンが念押しする。
「わかったわかった。で?」
軽い調子で了承して、カランは続きを促した。
「……学校の先生、と、か?」
フィンの声がひっくり返る。心臓がバクバクと音を立てた。
「へえ、案外フツーじゃん。それが周りを困らせるようなことか?」
けれど、カランはそんなフィンを気にするそぶりもない。いや、わざと触れないようにしているのかもしれなかった。
「大学、行かなきゃいけないから。奨学金借りるって手もあるけど、後がしんどいし」
施設の職員から聞いただけのことを、さも知っていて当たり前とでも言うように話す。
「しょうがくきん?」
カランは首を傾げた。
「大学入るときにお金借りて学費払って、働き始めたら返すやつ」
フィンは簡潔に言った。彼自身もこれ以上のことは知らないのだ。
「借金みたいだな」
カランが素直な感想を口に出す。フィンは頷きながら深くため息をついた。
「借金なんだよ。学校の先生って給料そんな高くないし、俺みたいに全部奨学金に頼らなきゃいけないタイプは地獄だよ」
「そんなになのか?」
カランは驚いて聞き返す。
「お金返すために働くみたいなもんだって、施設の人が言ってた」
フィンは声にできるだけ感情を載せず、なんでもないことのように話した。
一緒に不幸を嘆いて欲しいわけじゃない。
「そっか……」
カランが相槌を打つ。しばらくして、気を取り直すように続けた。
「まっ、とにかく学校の先生な!どこ?中学?」
フィンが首を傾げて考える。
「小学校…かな」
「理由は?」
カランの問いに、フィンが少し恥ずかしそうに言った。
「小学3年の時の担任の女の先生が好きだったから」
照れてそっぽを向くフィンをカランが揶揄う。
「へえ、可愛いとこあんじゃん」
フィンはカランの方に近づいて、彼の頭を軽くこづいた。
「茶化すなよ。俺のこと、可哀想とか優しくしてあげなさいとか言わないから、好きだったんだ」
カランは痛がるそぶりもなく軽く流す。
「へえへえ。わかったよ」
けれど、その瞬間何かに思い当たったように動きを止めた。
「…ん?まずいな。俺の小3のときの担任男だったし俺大嫌いだったから書けねーわ」
残念そうなそぶりさえ見せずあっさりと言ったカランに、フィンは複雑な気分になる。
「マジかよ、あんだけ聞きたがったくせに……」
「ごめん……」
さっきまでの図々しさが嘘のようにしゅんとしたカランを見て、フィンは別に気にしないけど、と言った。
「まあ、自分で考えろってことじゃね。頑張れよ〜」
掃除の仕上げをしながら、てきとうなエールを送る。
他人事だと思いやがって〜!と恨めしそうに言うカランに、フィンはそりゃ他人事だからな、と返して笑った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
フィンとカランは別の孤児院・別の中学校に通っています。よって、週末の訓練でしか会えません。
次はいよいよ不穏な雰囲気になっていきます




