第4話 紋章の呪い
コンビニバイトの面接にやってきただけなのに、ワケも分からず異世界へとやってきた悠斗。右も左も分からない世界の中で、一人の女の子が声をかけてくれた。
しかも悠斗の事を「時給581円の勇者」と認識している。
「き、君は?」
初めて来た世界で自分の事を知っている人に出会い、悠斗は戸惑っている。
「私の名前はリリアと申します。聖女見習いをしています。いつかは立派な聖女になって、困っている人を助けたいんです!」
キラキラした目で真っ直ぐな事を言っている。絶対に悪い人ではないと悠斗は思った。
「ぼ、僕の名前は悠斗…コンビニ店員をしているんだけど、なぜかこの世界に来ることになってしまって…それよりも、どうして僕の事を知ってるの?」
「世界を救う勇者様がとうとう現れたって、今はこの話題で王国中持ちきりなんですよ」
(な、なんか、とんでもない事に巻き込まれているような気がする…バイトの面接に来ただけなのに…)
「そ、そうなんだ。でも、どうして僕が、その『時給581円の勇者』だって分かったの? 同じ様な格好をしている人は他にもいるみたいだけど…」
街の中心にあるお城のような建物の門には、悠斗と同じ様な格好をした兵士の姿も見える。武装しているからといって、自分がその『勇者様』であることがどうして分かったのか?
「だって、そこに書いてあるじゃないですか。ほら?」
リリアが服のポケットから小さな手鏡を出し、悠斗に向けようとした。
「わああああああっ! ダメダメダメダメっ!」
悠斗が慌てておでこを手で隠す。
「ど、どうしたんですか? 何がダメなんですか!?」
悠斗の慌てっぷりに戸惑うリリア。自分がとんでもなく失礼な事をしてしまったのでは? と、こちらも慌てふためく。
「僕の額にある紋章を、絶対に見てはいけないんだ。窓や水たまり、湖やその他諸々、とにかく、この額の紋章を絶対に見てはいけないと言われてるんだ!」
「そ、そうなんですか? 見たらどうなるんですか?」
「…死ぬ…」
「えっ?」
「だから…死ぬ…」
「えっ……ええええええええええっ!? 私、見ちゃいました! 死んじゃうんですか? 私、死んじゃうんですか? まだ好きな人と出会えていないのに! ええええええんんんん」
その場でしゃがみ込み、両手で顔を覆いながらえんえんと泣くリリア。
「あ、いや…君じゃなくて、僕が…」
「そ、そうなんですか? そ、そうですよね。額の紋章を見ただけでみんな死んじゃうなら、勇者様じゃなくて殺し屋になっちゃいますもんね。あー良かった」
さっきまで泣いていたのに、今はにっこり笑っている。とても表情が豊かな女の子だな、と、リリアを見て悠斗はなんだかホッとした気持ちになった。
「じゃあ私、勇者様が絶対に額の紋章を見ないようにお手伝いしちゃいます! あ、勇者様、こっちを見ちゃダメです!」
悠斗のすぐ近くにある水たまりの前に立ち、両手を広げて見えないようにするリリアを見て、やっぱりこの子は悪い子ではないな、と改めて思う悠斗だった。
「話がそれちゃったけど…どうしてリリアは『時給581円の勇者』の事を知ってるんだい?」
疑問の振り出しに戻る。
「そ、それは、ある『予言の板』が突然現れたところから話が始まるんです…」
さっきまでニコニコしていたリリアの顔が、急に真剣になったのを見て、悠斗の胸はざわざわと鳴っていったのだった。




