第18話 石版
大きなコウモリのようなモンスターが牙を剥いてこちらを見ている。
悠斗は剣を抜いて構えた。今日はこの間のじゃ○りこの様な奇跡は起きないだろう。だって、向こうの世界から持ってきたものは、スマホ以外ないのだから…。
(スマホ?)
「そうだ! スマホだ!」
「スマホ…ですか? 悠斗様、それはどんな魔法なんですか?」
「魔法じゃなくて道具だよ。コウモリはずっと暗い場所に居るんだ。だから明るい光には弱いはず!」
悠斗はモンスターに向かってスマホのライトを当てた。
しかし何も起きなかった。
「あれ? も、もう一回!」
悠斗はもう一度モンスターに向かってスマホのライトを当てた。
しかし何も起きなかった。
「も、もしかして効かないのか? ど、どうしよう!?」
光が効かないと分かった今、悠斗の選択肢は二つ。剣を使って攻撃をするか、それとも逃げるか。
(逃げてしまったら、この世界の真実を知る事ができなくなる…って…それは俺が咄嗟についた嘘だったじゃないか? それなら逃げても問題な……い?」
悠斗が逃げようとするが、リリアがキラキラした期待の眼差しで逃げ道を塞いでいる。逃げる事ができない。
(やるしかないか…で、できるのか?)
悠斗は再び剣を構えた。モンスターがどんな攻撃を仕掛けてくるか分からない。襲ってきたら直ぐに攻撃できるように、悠斗は剣先をモンスターに向けた。
「こ、来いっ!」
期待の眼差しで見つめるリリアの手前、ビビっている姿は見せられない。何もできないかも知れないが、威勢だけは良くしてみた。すると……
「悠斗様……動きません」
「う、うん…そうだね…動かないね…」
「死んでます?」
「し、死んでる…のか?」
悠斗はスマホのライトでモンスターの目を照らした。
反応がない。ただの屍のようだ。
恐る恐るモンスターを触ってみる。体温がない。
「これ…剥製だ…」
「どうして剥製って分かるんですか?」
「だって…ここに書いてあるし…」
『これは剥製です。お手を触れないで下さい』
剥製の胸のところに、日本語でそう書いてある。
「すごい! 悠斗様はこの文字が読めるのですか?」
「えっ…だって、日本語だし…」
「ニホンゴ? それは悠斗様の世界の言葉なんですか?」
「そうだよ。僕が住んでいる国の言葉だよ。でも何でこんな所に日本語が書いてあるんだ?」
悠斗はスマホを壁に向けてみた。壁に石版のようなものがある。そこに日本語が書かれていた。
(どういうことだ? 何でここに日本語が? ワケが分からない…)
悠斗が考えていた時、ある事に気づいた。
(そ、そうだ! 今日はバイトの時間が短いんだった! このままリリアを残したまま元の世界に戻されたら、リリアを置き去りにしちゃうじゃないか!)
リリアをこのまま一人でここに残しておくことはできない。悠斗はカメラ機能で石版を写した。あとで時間のあるときに考える事にした。
「リリア、早く街に戻ろう!」
「えっ? この世界の真実がまだ…」
「それはまた今度にしよう。今はとにかく君を無事に街まで送り届けないと」
「悠斗様! この世界の真実よりも私の身を案じて下さるのですか?」
そう言って、ぽっと頬を赤らめるリリア。
「とにかく急ごう! 時間がない!」
リリアの手を引き、急いで街へと戻る悠斗。そして何とか時間内に街まで戻ることができた。
「リリア! 悠斗様!」
街まで戻ると、クララが二人を出迎えてくれた。
「クララ、外に出ちゃダメじゃない。国王に怒られてしまうわ」
「だって、リリアと悠斗様の事が心配だったんだもん…」
「私なら大丈夫よ。悠斗様が守って下さったの。世界の真実よりも、私のことを心配して下さったの! 悠斗様、私嬉しかったです…あの…お礼がしたいのですが…」
と、モジモジしながら頬を赤らめるリリア。そして悠斗の頬に唇を近づける。
「ああっ! 私もっ!」
と、クララも反対側から悠斗の頬に唇を近づけた。
唇が触れようとした瞬間、悠斗の姿が忽然と消えてしまう。
クララとリリアは、再び口づけを交わしたのだった。




