23話
生化学の中間テストも終わって、
みんな少しだけ気が抜けていた。
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大講義のあと。
教室の前の方では、まだ何人かが残って話している。
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花音は莉緒と一緒に荷物をまとめながら、
「次なにだっけ」
なんて話していた。
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少し離れたところでは、オギーが男子数人と話している。
いつもの光景。
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その中の一人が、何気ない調子で言う。
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「そういえばさ、前オギー告られてたよな」
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花音の手が、一瞬だけ止まる。
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でも顔は上げない。
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別の男子が、
「あー、あったな」
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「え、誰に?」
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「知らん。普通に断ってたけど」
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オギーは少し困ったみたいに笑う。
「その話もうよくない?」
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「なんで隠すんだよ」
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「別に隠してないって」
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周りは軽く笑っている。
本当にただの雑談みたいに。
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花音はノートを鞄に入れながら、なるべく普通の顔をする。
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(……告白されたんだ)
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頭では、そりゃそうだと思う。
オギーは普通にモテる。
優しいし、話しやすいし、誰とでも自然に仲良くなる。
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でも。
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(誰なんだろ)
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その考えだけが、妙に残った。
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教室を出たあと。
花音は少し迷ってから、莉緒に言う。
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「……オギー、告白されたことあるんだって」
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莉緒は苦笑いしながら
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「うーん、まあ、あれだけ女友達いたら、一人ぐらいいるでしょ」
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花音は苦笑する。
「まあ、そうなんだけど」
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その返事が妙に現実的で、逆に何も言えなくなる。
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その日から。
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図書館でオギーと話している女の子。
実習で隣にいる子。
食堂で笑っている子。
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そういう存在が、気になるようになる。
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(この子かな)
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そう思ってしまう自分に、花音は少し疲れる。
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もちろん、ただの友達かもしれない。
そもそも、誰なのかも分からない。
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なのに。
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オギーの周りにいる女の子たちが、
前より少しだけ遠く感じた。
図書館の帰り。
外はもう暗くなっていて、空気が少し冷たい。
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花音は一人で歩きながら、ぼんやり思い返す。
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学祭。
鍋。
図書館。
くだらない語呂合わせ。
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気づけば、最近の思い出には普通にオギーがいる。
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(……好きなのかな)
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そう思った瞬間。
胸の奥が少しだけ苦しくなる。
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でも同時に、別の考えが浮かぶ。
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(でも)
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オギーは、みんなにああだ。
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誰とでも自然に話して、
優しくて、距離が近くて、
気づけば人が集まっている。
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図書館で笑っていた女の子。
学祭で隣にいた子。
スーパーで一緒に肉を選んでいた子。
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そして、告白した誰か。
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(もう、私のこと好きじゃないかもしれないし)
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花音は小さく息を吐く。
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最初に告白された時は、信じられなかった。
でも今は。
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信じられないんじゃなくて、分からない。
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自分が特別なのか。
それとも、“みんなの中の一人”なのか。
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その境界が、見えなくなっていた。




