17話
図書館はいつも通り静かで、
後期の課題レポートのせいか、机は少しだけ埋まっている。
花音は本を持って、空いている席を探して歩く。
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奥の方の四人掛けの机。
そこにオギーがいた。
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向かいには知らない女の子が一人。
ノートを開いて、何か話しながら作業している。
空気は普通に“グループ作業”のそれだった。
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(あ、いるんだ)
そう思った瞬間。
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オギーが先に気づく。
「ハギー」
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軽く手を上げる。
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「ここ来る?」
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何でもないみたいな声。
女の子の方も一瞬見てから、特に気にした様子もなく少し席をずらす。
「どうぞ」
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花音は少しだけ迷ってから、
「……うん」
と返して、その机に座る。
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机の上にはノートと参考書が広がっていて、
さっきまでの会話の続きがそのまま残っているみたいだった。
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オギーは普通に言う。
「今レポやってた」
「ここ、ちょっと分かんなくてさ」
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女の子も自然に続ける。
「あ、それさっき言ったやつ」
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花音はその横で、静かに自分の課題を開く。
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(ほんと、いつも通りだな)
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誰か特別な感じでもなくて、
でも拒絶されているわけでもなくて。
ただ、そこに“いる”だけ。
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しばらくしても空気は変わらない。
オギーは普通に話すし、女の子も普通にいるし、
花音もそこに混ざっているだけ。
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なのに。
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(私は、今どこにいるんだろう)
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ふと、そんなことを思う。
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本のページをめくる音だけが静かに続く。
図書館の時間は、何も変わらないまま進んでいく。
大講義室は、獣医学部全員の授業のため人が多い。
ざわざわした空気の中で、まだ少し眠そうな声や、教科書をめくる音が混ざっている。
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花音は後ろの方の席に座って、莉緒と並んでいる。
「この授業さ、出席あるのかな」
莉緒が小声で言う。
「たぶんあるでしょ、これ必修だし」
花音も適当に返しながらノートを開く。
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そのとき。
少し離れたところで、笑い声が聞こえる。
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オギーだ。
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周りに数人、男女混ざって話している。
特に騒がしいわけじゃないけど、空気が少しだけ明るい。
誰かが冗談を言って、オギーが笑っている。
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花音は一瞬だけそっちを見る。
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(楽しそうだな)
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莉緒が気づいて、
「楽しそうだね」
と小さく言う。
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花音は曖昧に笑って、
「そうだね」
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授業が始まると、教室は静かになる。
教授の声が響いて、みんな一斉に前を向く。
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オギーも、さっきまでの空気とは違って普通にノートを取っている。
隣の誰かと軽くメモを見せ合ったりしながら。
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(ああいうのも、普通なんだよね)
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花音はペンを動かしながら、ふと思う。
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特別じゃない距離。
でも遠いわけでもない距離。
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ただ、その中に自分がどう入っているのかだけが、少し曖昧なまま残る。
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授業が進んでいく中で、
花音と莉緒の時間と、オギーの時間は同じ教室にありながら、
別の流れで動いているみたいだった。




