15話
部屋のドアを閉めて、靴を脱ぐ。
いつも通りのはずなのに、少しだけ空気が違う気がする。
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カバンを置いて、スマホを見る。
特に通知はない。
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なのに、さっきの言葉だけが何度も浮かぶ。
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(好きなんだ)
(付き合ってくれないかな)
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花音はソファに座って、ぼんやり天井を見る。
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正直、嫌だったわけじゃない。むしろ驚いただけ。
でもその「驚き」が、まだ胸の奥に残っている。
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(なんで私なんだろう)
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他の人と何が違うんだろう。
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考えれば考えるほど、答えは遠くなる。
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スマホを手に取るが、開けない。
開いても、何を送ればいいのか分からなかった。
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ため息をひとつついて、結局そのまま置く。
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今日の夜のことが、少しだけ混ざる。
笑っていた時間。普通に楽しかった時間。
そのすぐあとにあった、あの言葉。
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(あのまま、何も知らなかったらよかったのかな)
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でもそれは、それで違う気もする。
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花音は小さく体を丸めて、声にならないまま考える。
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結論は出ない。けれど、消えもしない。
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ただ一つだけはっきりしているのは、
“何もなかった頃にはもう戻れない”ということだけだった。
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夏休み
夏休み。オギーとお茶をすることになった。
そのとき、声がする。
「ハギー」
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振り向くと、新が立っていた。
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「おまたせ」
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いつも通りのトーン。でも、少しだけ間が丁寧だった。
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花音は一瞬だけ考えてから、
「うん」
とだけ返す。
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大学近くのカフェ。
少しだけ混んでいるが、二人は窓際の席に座る。
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最初は普通の話だった。
後期の授業どうするか、夏休みどうするか。
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やがて一度だけ、空気が変わる。
新が飲み物を置いてから、花音を見る。
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「この前のさ」
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花音の手が一瞬止まる。
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責めるような声ではない。
「ちゃんと考えてくれた?」
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花音は視線を落として、
「……まだ、ちゃんとは」
正直に答える。
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新はうなずく。
「そっか」
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少し間を空けてから、
「急いでないから」
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その一言で、空気が少しだけ軽くなる。
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花音はカップを見つめながら、ようやく呼吸が整う。
それでも同時に思う。
(ちゃんと向き合わなきゃいけない)
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少しして、花音は小さく口を開く。
「ねえ」
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新が顔を上げる。
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花音は困ったように笑って、
「いつから好きなの?」
少し言い直すように続ける。
「私のどこがいいの?」
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一瞬、静かになる。
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新はすぐに答えを用意するというより、少し考えてから言う。
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「いつからって言われると、はっきりは分かんないけど」
軽く笑って、
「気づいたら、かな」
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それから花音を見る。
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「あと、ハギーといるときって、変に気を張らなくていいんだよね」
「そういうの、楽だった」
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少し間を置いて、
「あと、一緒にいて楽しいし」
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花音はそれを聞いても、すぐには納得できない。
(それって、誰にでもじゃないの?)
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新はそこで押さない。
「まあ、そういう感じ」
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花音は曖昧に返す。
「うーん、そうなんだ……」
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新は少しだけ笑う。
「なにその反応」
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花音は視線を落とす。
「だって、よくわかんなくて」
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「そっか」
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それ以上、追わない。
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お茶のあと、新はあっさり立ち上がる。
「じゃ、そろそろ帰るか」
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花音も少し遅れて立つ。
「うん」
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駅までの帰り道は短い。
会話はあるが、深くはならない。
授業のこと、どうでもいい話。
日常に戻すための言葉だけが続く。
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駅に着く。
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新は軽く手を上げる。
「じゃあまた、連絡する」
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花音も同じくらいの温度で、
「うん」
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夏休み中、帰省するなどの連絡が新から何度かあり、花音はそのたびに短く返していた。
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カフェ(莉緒)
夏休みに入って少し経った頃。
花音は大学近くのカフェで、莉緒と向かい合っていた。
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「……でね」
花音はストローをいじりながら、少し言いにくそうに続ける。
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「オギーに告白された」
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莉緒の動きが止まる。
「……え?」
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花音は小さくうなずく。
「花火の日」
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「待って」
莉緒が本気で驚いた顔をする。
「え、オギーが?」
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「うん」
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「全然気づかなかったんだけど」
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花音は困ったように笑う。
「私も」
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「いやでも、仲良かったじゃん?」
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「仲良かったけど……」
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少し言葉を探してから、
「オギーって、みんなにああいう感じじゃない?」
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莉緒は少し黙る。
たしかに彼はそういう人だった。
誰とでも話す。距離が近い。自然体。
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「まあ……それはわかる」
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「だから、私だけ特別って言われても、ピンとこなくて」
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花音はカップを見つめる。
「信じられないっていうか」
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莉緒は考える。
「でも、オギーってハギーのこと結構見てた気もするけど」
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「え?」
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「普通に気にかけてたっていうか」
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花音は首を振る。
「それも、みんなにじゃない?」
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「うーん……」
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莉緒は少し迷って、
「でもハギーには、なんか自然だった気がしないでもない」
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その言葉を、花音はまだうまく飲み込めない。
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自然。
それは自分にとっても同じだった。
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一緒にいると、頑張らなくてよかった。
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でも、それが“好き”かどうかはまだ分からない。
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莉緒はふっと笑う。
「ていうかオギー、ちゃんと告白するタイプなんだ」
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「……した」
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「意外」
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「わかる」
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少し笑って、また少し静かになる。
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「どうしたらいいんだろ」
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花音の呟きは、答えではなくそのままの気持ちだった。
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莉緒は少し考えてから言う。
「でもさ、悩んでる時点で、どうでもいい相手じゃないんじゃない?」
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花音はすぐには答えられなかった。
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窓の外は強い夏の日差し。
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それでも花音の中では、まだ花火の夜が続いていた
まとまりのない文ですみません…




