13話
試験が終わったその日。
キャンパスには一気に解放感が広がっていて、みんなのテンションもどこか軽い。
莉緒がスマホを見ながら言う。
「ねえ、今日さ」
「花火やらない?」
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その一言で、空気が決まる。
エンちゃんも笑って、
「いいじゃん、やろやろ」
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気づけば、いつものメンバーが集まっていた。
コンビニで花火と飲み物を買って、大学近くの川沿いへ向かう。
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夕方の空はまだ少し明るい。
でも風はもう夜の気配を含んでいて、夏の終わりみたいな匂いがする。
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花音は袋を持ちながら歩く。
隣には莉緒、その少し前に新がいて、後ろからエンちゃんたちが笑いながら続く。
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河川敷に着くと、誰かが言う。
「ここでいいじゃん」
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地面に座って、花火を開ける。
ライターの火がついて、一気に世界が変わる。
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パッ、と光る線香花火。
笑い声。
小さな悲鳴。
誰かがふざけて走る。
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新は特に騒ぐわけでもなく、
でもちゃんとそこにいる。
誰かに火をつけてあげたり、
落ちた花火を拾ったり。
いつも通りの距離感で。
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花音はその様子を見ながら、
(ほんとに、誰にでもこうなんだな)
と、少しだけ思う。
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でも同時に、
(でも、こういう時間は楽しい)
とも思っている。
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時間が進むにつれて、花火はどんどん減っていく。
空気が少し静かになる。
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誰かが言う。
「もう終わりじゃない?」
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片付けが始まる。
袋にゴミをまとめて、立ち上がる。
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人が少しずつ帰っていく。
エンちゃんたちが先に別方向へ。
莉緒も「またねー」と手を振った。
花音も駅の方へ向かおうとして、
「じゃあ私も——」
と言いかける。
その時だった。
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「ハギー」
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新が少しだけ真面目な声で呼ぶ。
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「……ちょっといい?」
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花音は一瞬だけ目を瞬かせる。
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「え?」
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「少しだけ」
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その言い方が、
いつもと少し違った。
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「……うん」
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莉緒たちはもう少し先を歩いている。
新はその背中を見送ってから、
花音の隣へ並んだ。
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夜風が少し冷たい。
遠くではまだ誰かの笑い声が聞こえる。
でも、自分たちの周りだけが少し静かだった。
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「帰り、電車だっけ」
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「うん」
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「駅まで送る」
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二人でゆっくり歩き出す。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいに、
足音だけが静かに響く。
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しばらく歩いたあと、
新がぽつりと言う。
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「今日さ」
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花音が顔を向ける。
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新は少しだけ笑ってから、
「やっぱ楽しかったね」
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花音も小さくうなずく。
「うん」
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そして、少し間が空く。
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新が前を向いたまま呼ぶ。
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「ハギー」
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ここで空気が変わる。
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「オレ、ハギーのこと好きなんだ」
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もう一度、ちゃんと目を見る。
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「付き合ってくれないかな?」
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花音の足が、一瞬だけ止まりかける。
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花火の余韻みたいに、言葉だけが静かに残る。
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夜の空気の中で、
その一言だけが少し重さを持つ。
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花音はすぐに返せない。
ただ、隣を歩く新を見ている。
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夏の終わりみたいな夜の中で、
関係だけが静かに形を変え始める。
やっと折り返しです




