12話
図書館の入口をくぐると、空気が少しひんやりしていた。
花音は重たい教科書とノートを抱え直して、自習スペースを見渡す。
⸻
(今日はここでやるか……)
⸻
席に着いて、まずは教科書を広げる。
ページを開くだけで、少し気が重くなる厚さだった。
⸻
しばらくして集中し始めた頃、
ふと視界の端で人の動きが見えた。
⸻
「ハギー」
⸻
顔を上げると、新がいた。
ただし今日は一人じゃない。
隣には知らない男の子、
後ろには別の女の子もいる。
⸻
「ここ空いてる?」
新が軽く机を指す。
⸻
「うん、大丈夫」
花音が頷くと、
そのまま自然にグループが同じテーブルに広がる。
⸻
気づけばそこは、
* 新
* 知らない男子
* 知らない女子
* 花音
の“なんとなく勉強グループ”になっていた。
⸻
「試験いつから?」
誰かが聞く。
⸻
「来週から」
「やば」
「まだ何もしてない」
⸻
そんな会話が飛び交う中、
新は普通に教科書を開いている。
⸻
花音は少しだけ横目で見る。
(ほんと、いつも誰かいるな)
⸻
男の子の時もあれば、
女の子の時もある。
知らない人も普通に混ざっている。
でもその場はいつも、
変に気を遣う感じではなくて、
自然に“勉強する集まり”になっていく。
⸻
「これどこからやる?」
新が軽く声をかけると、
周りがそれに乗る。
⸻
花音もページをめくりながら、
その輪の中に普通に溶けていた。
⸻
ふと、
さっきまで別々だったはずの人たちと、
同じ机で同じ教科書を見ていることに気づく。
⸻
(大学って、こういう感じなのかも)
⸻
その中に、
オギーの姿はいつも自然にあった。
別の日。
花音が図書館へ行くと、
自習スペースの奥から聞き慣れた笑い声が聞こえた。
⸻
「あ、ハギー」
⸻
顔を上げた新が、
すぐにこちらへ気づく。
今日は女子二人と一緒だった。
机の上にはノートやプリントが広がっている。
⸻
「また勉強会?」
花音が聞く。
⸻
「なんか集まった」
新が普通に言う。
⸻
「オギー、気づくと誰かいるよね」
⸻
「ハギーも来る?」
⸻
その聞き方があまりにも自然で、
花音は少しだけ笑う。
⸻
「……じゃあ座る」
⸻
「はい、ここ」
⸻
新が隣の椅子を軽く引く。
女子たちも普通に会釈した。
⸻
「ハギーちゃんは生物?」
⸻
「うん」
⸻
「助かった、オギーの説明全然わかんなくて」
⸻
「え、なんで」
新が不満そうに言う。
⸻
「雑だから」
⸻
「ノリで説明するから」
⸻
花音は思わず少し笑った。
⸻
気づけばまた、
知らない人たちと同じ机を囲んでいる。
⸻
でも不思議と、
それが嫌ではなかった。
⸻
オギーの周りには、
いつも誰かがいる。
そして花音も、
少しずつその輪の中に入っていっていた。




