10話
「熱っ、ちょっと待って」
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「そっち持って」
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わちゃわちゃしながら、
新と花音が鍋を運ぶ。
後ろから莉緒が、
「こぼさないでよ!」
と笑っている。
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リビングでは、
男子たちがすでにテーブル周りを片付けていた。
取り皿も箸も並べられている。
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「お、できた?」
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「完成したー!」
エンちゃんが嬉しそうに言う。
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鍋をテーブルの中央へ置いた瞬間、
「うまそう!」
と一気に声が上がった。
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「ありがとう!」
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「めっちゃいい匂いする」
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「取り皿もうあるよ」
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新が「助かる」と笑いながら席に座る。
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冷房の効いた部屋の中、
湯気だけがもくもく上がっていた。
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花音も自分の席に座りながら、
なんとなく部屋を見回す。
みんな好き勝手喋っていて、
騒がしくて、
でも居心地が悪くない。
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その向かいで、
新が鍋を見ながら満足そうに言った。
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「絶対うまいやつ」
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「じゃ、いただきます!」
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声が重なって、
みんな一斉に箸を伸ばす。
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「熱っ」
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「当たり前」
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「うわ、これうま」
男子の一人がすぐ言った。
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「ほんとだ」
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「キムチ鍋なのにまろやか」
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その横で、新が鍋からウインナーを取る。
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「あ、これうまい」
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「オギー絶対それ言うと思った」
莉緒が笑う。
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花音もひと口食べて、少し目を丸くする。
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「……ほんとだ、美味しい」
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「家で食べるより美味しくない?」
エンちゃんが嬉しそうに言う。
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「わかる」
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「みんなで食べてるからじゃない?」
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「いや、やっぱ味噌じゃない?」
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その瞬間、
エンちゃんがドヤ顔になる。
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「でしょ!」
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「エンちゃん急に料理人の顔してる」
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「いやでもほんと正解かも」
新も普通に頷く。
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わいわい騒ぎながら、
鍋の中身はどんどん減っていく。
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その途中で、
エンちゃんが急に声を上げた。
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「あっ、チーズ!」
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「え?」
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「入れ忘れた!」
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みんな一瞬止まる。
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「あったねそんな話」
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「今からでもいける!」
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新がすぐ冷蔵庫を開けて、チーズを出す。
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「じゃあ上に乗せよう!」
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追加されたチーズが、
熱いスープの上でゆっくり溶けていく。
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「うわ、急に罪の味」
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「絶対うまい」
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「発酵食品バンザイ」
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実際、食べてみると普通に美味しかった。
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「やば」
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「これ好き」
花音も思わず言う。
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「でしょ」
新がちょっと嬉しそうに笑う。
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花音は笑いながら、
ふと思う。
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(大学入ってよかったかも)
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鍋の中身がほとんどなくなる頃には、
みんなかなり満腹になっていた。
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「もう無理……」
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「とか言いながら食べるんでしょ」
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新が笑いながら、
袋麺を取り出す。
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「しめ入れる?」
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「ラーメン!?」
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「まだ食うの?」
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「鍋のしめは別腹」
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結局、
誰も止めないまま麺が投入される。
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「うわ、絶対うまい」
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味噌とチーズの入ったキムチスープに麺が絡んで、
思った以上に美味しい。
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「やば」
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「これ店じゃん」
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「エンちゃんの味噌が効いてる」
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「もっと褒めていいよ」
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最後までわちゃわちゃ食べ終わる頃には、
時計はすっかり遅い時間になっていた。
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「じゃあ洗い物するかー」
男子の一人が立ち上がる。
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「作ってない人担当ね」
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「合理的」
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結局、
* 新
* 作ってない人
がキッチンに立つことになる。
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花音たちはリビング側へ移動した。
キッチンからは、
まだ笑い声と水の音が聞こえてくる。
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その時、莉緒が思い出したように言う。
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「アイスあるじゃん」
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「あ、食べる!」
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エンちゃんが冷凍庫を開ける。
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「箱アイスだ」
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「コスパ重視です」
キッチンの方から新の声が飛んでくる。
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箱の中には、
小さめのバニラバーがぎっしり入っていた。
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「これくらいがちょうどいいんだよね」
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みんなで一本ずつ取っていく。
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「鍋のあとアイスうま……」
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「しかも冷房効いてるから最高」
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花音も包装を開けながら小さく笑う。
さっきまで熱い鍋を囲んでいたのに、
今はみんなでアイスを食べている。
なんだか全部、
大学生っぽいなと思った。




