表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/86

ガンガンガン

ご飯もケーキも食べ終わると、ママは冷蔵庫から冷やしたコップと、これまたキンキンに冷やした布袋ビール350ml缶を出してきた。パパが単身赴任する前に日課にしていた晩酌を始めるらしい。

「ここのところ125ml缶だったからね〜。」

今日は私がツマミを作ると言って、ママが張り切って出してきたのは切っただけの竹輪で、思わずパパと顔を見合わせて吹き出してしまった。

「宿題してくるね。」

そう言うと、2人の笑い声を聞きながら、部屋のドアを閉めた。

本当はパパとアリンコの話をしたくてしょうがなかったけど、ママの嬉しそうな顔を見て、今日のところは我慢することにした。

パパが子どもの頃の冒険談だったら、何ならアリンコに訊くこともできるしな。

「はぁ〜、ボクって本当に気がきくよね〜。」

ベッドにボスンッと勢いよく寝転がると、いつのまにか目の前にオロンとキュッピが出てきた。

「きくー、りくきくのー。オロロン」

「何だかわかんないけど、きくっピ!」

「ぷっ。あはははは!お前たち、自分がなに言ってるかわかってないだろ〜。」

2匹は不思議そうに「オロー?」「キュピッ?」と頭を傾げると、「オロロロ」「キュピピ」と楽しそうにぐるぐる回っている。

お腹もココロも満たされて、いつの間にか歯も磨かずに眠りに落ちた。


ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ


「うわっ!うるさいっっ!」

なに!?なんなのこの音!?

あれ?何も見えないぞ?見えるのは地面?でもなんか、いつもの土って感じじゃない。空気の流れも感じないし、木のいい匂いがする。

木!?もしかして、ここ木の中!?


ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ


「うるさいよ!うるさいってば!」

あまりのうるささに、思わず大きな声を出してしまった。

規則正しく同じ間隔で、何かを叩くようなぶつけるような、そんな音・・というか爆音?がする。

声をあげたことで、頭がハッキリしてきた。

ちょっと待ってまさか・・何かが爆発してたりとか?

「え、え、え?ど、どうしよう。パ、パパ?ママ?」

焦りに焦って周りを見回そうとしても、視界がぼんやりしてるしおまけに下しか見えない。

「なんで!?なんで何にも見えないんだよ!?パパママどこ!?ねぇ!」

次の瞬間、ハッ!と思い当たって力が抜けた。

「あ〜〜・・・また虫になったんだぁ、たぶん。」

なんだよアリンコのヤツ!

そんでもって、いつもの展開だと・・はあぁ〜、たぶん、というかほぼ間違いなくシバンムシになってるんだよな〜。なんて思いながら、さっき見た大量のシバちゃん達を思い出してブルリと身震いした。

でも・・・

触覚をクンクンさせると、やっぱり木の匂いがする気がする。

ここって木の中・・だよな?シバンムシって家の中にいるんじゃないのかなぁ?てことは、シバンムシじゃないってこと?

周りを確認しようにも、ぼんやりしてるし下の方しか見れないから、確認のしようがない。

まあ、ぼんやりしてるのは複眼で視力が良くないってことなんだろうけど、下の方しか見えないってのは何でだろ?顔の位置が今までと違うのかなぁ?

そう思って触覚を動かすと、顔のすぐ下で触覚が動くのが見えた。

そっか!顔が下向きについてるんだ。

試しに「よっこいしょ」っと小さくて重い頭部を上げてみると、パッと視界が明るくなった。

お〜!ぼんやりではあるけど、ちゃんと見える!・・半分だけだけど。

上半分は明るくなったけど、下半分は目の前の物体が邪魔をしていてよくわからない。その見えない半分を占めているのは、ずんぐりした形で横に線というかスジが入った茶色いドームだ。

もっとよく見ようとしたけど、だんだん首の後ろ辺りが重たくなってきた。

・・・なんか疲れるな。

ガクッと頭部を下げると一気に楽になった。

ふぃ〜。それにしても、今のはなんだろう?

小山みたいなドームは茶色くて、金色の毛がビッチリ生えていた。そして、ちょっと動いた気もする。生き物、だよな。たぶん。

もう1回見てみよーっと。

再び重い頭部を上げてみる。さっきは首(虫に首があるかはわかんないけど)だけに力を入れてたけど、身体を使って頭部全体を持ち上げるようにしてみたら、さっきより少し楽に視界が開けた。

目の前の茶色いドームは、動かずジッとしている。周りを(といっても見える範囲は狭いんだけど)見渡すと、離れたところにもモヤモヤ何かがある気がした。モゾモゾ動いているから、アレもやっぱり生き物なんだろう。近くから聞こえていた爆音が鳴り止んでいる今は、そこかしこからガンガンと同じような音が聞こえてくる。

「この音なんなんだろう?」

頭部を捻っていたら、急に前のドームが動き出した。


ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ


見ると、頭を壁にぶつけている。

「ちょ、ちょ、ちょっ!?危ないって、何やってんだよ!?」

ビックリ仰天して、慌ててドームを押し留めた。

「モイモイ?」

「いや、モイモイとかじゃなくてさ、危ないってば!頭がバカになっちゃうよ?」

そう言うと、ドームは頭をクイッと少しだけ傾げた。顔はよく見えない。

「モイモイ?奥さん見つけるモイ。ガンガンしないと気づいてもらえないモイ。」

そう言うと、再び頭を持ち上げて壁にぶつけ始めた。


ガンッ ガンッ ガンッ ガンッ


「わー!うるさいっ!だからうるさいんだってば!」

思わず音のする方へ突っ込んだ。

「モイモイ?」

ドームはこっちに向き直ると、もじもじと話し始めた。

なんとなく恥ずかしそうにしている気がする。

う〜ん、やっぱり無表情にみえる虫達の気持ちが、わかるようになってきたみたいだ。

「モイモイ。は、初めましモイ。ぼ、ぼ、ぼ、ぼくの奥さんになってくだモイ。」

「は?」

「き、気づいてくれてありがモイ。キミに会うためにガンガンしたモイ。」

「えぇ!?なに言ってんだよ。ボクは男・・オスだから、奥さんになれないよ。」

「モイ!?」

ドームはボクを触覚でツンツンすると、

「モイー!?騙されモイ!」

そう言ってグルリと壁に向き直り、頭を振りかぶった。

「ちょっと!やめなってば!」

「やめられないモイ。」

「なんでやめらんないの?痛いでしょ?」

「・・ちょっとだけ痛いかもしれなモイ。」

ドームはちょっとだけ考えると、ボクの質問にそう答えた。

「ほら、痛いんじゃん。」

「だけど奥さん見つけるためだからしょうがモイ。オスはこうやって音を出して、メスを呼ぶモイ。」

「へぇ〜。オスは大変なんだね。」

「ちっとも大変じゃないモイ。奥さんになるメスは、卵を産まなきゃいけないモイ。音出したら、敵に見つかるモイ。」

「敵?」

「そうだモイ。」

「敵なんていんの?」

「アレだモイ。」

「?」

何かが近づいてくる


ヒュンッ


空気が動いて、何かが上を掠めていったのがわかった。

「えっ!ビックリした。アレなに?」

「アリガタバチだモイ。」

その言葉を最後に、ドームはピクリとも動かなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ