第16話「未来」
悠馬は自転車に飛び乗り、猛スピードで漕ぎ出した。
大学からの長い坂道を下り、駅前を通過してすぐの急な曲がり角を曲がる。
カラカラカラ……
違和感のある音とともに自転車のチェーンが外れた。
悠馬は自転車から降り、近くの公園の中に入った。
必死でチェーンをはめようとしたがはまらない。
しゃがみ込み自転車を触る悠馬の元に足音が近づく。
振り返った悠馬の背後で勢いよく噴水が上がった。
「悠馬くん……」
立っていたのは由紀子だった。
悠馬は次第に辺りが霧掛かって行くのを感じた。
「あなた……本当にごめんなさい……」
悠馬はその場に崩れ落ちた。
涙が自然と流れ、地面を濡らしている。
「いいんだよ……いいんだよ未季江。」
由紀子は涙で濡れた眼鏡を拭きながら言った。
2人はベンチに腰掛けながら噴水を眺めていた。
「あれから何度も何度もひまわり苑を訪れたんだけど、コロナで面会が制限されて思うように会えなかった。」
由紀子は悠馬の顔を見つめながら言った。
「2人にも残された時間は少なくて……結局そのまま……」
由紀子は悠馬の肩を抱きながら言った。
「私は……施設で過ごしながら、頭の中でぐるぐる考えていたの……絶対に何か思い出さないといけないことがある……って。」
悠馬は手のひらを合わせながら言った。
「でも……思い出せなくて。きっと離れていた期間が辛くて心の奥底にしまっていたのかもしれない……」
悠馬は手で涙を拭きながら言った。
「もう一度出逢えたのが今の時代で良かった。これからも思う存分君に会える。会いたい人に会えることはこの世で一番幸せなことだから。」
由紀子は優しく笑って答えた。
「30分経ったら元の2人に戻って、今の記憶は無くなってしまうってそう言われたの。」
悠馬は不安気に言った。
「大丈夫、今はまだまだだけど、いずれ筑紫悠馬と白石由紀子は結ばれる。私たちの記憶は消えても、2人の未来は続くんだ。」
由紀子は穏やかに笑った。
2人の間に沈黙が続き、ゆっくりとした時間が流れていった。
「もう少しね……25分経った……」
悠馬は寂しそうに由紀子を見た。
「最後に握手してもいいかな?」
由紀子はニコッと笑って答えた。
「あ……」
悠馬は自分の手を見て黒く汚れていることに気づいた。
由紀子は何も言わず悠馬の両手を握った。
「大丈夫……大丈夫だよ……」
噴き出した噴水の音が周囲に静かに響いていた。
第2章 完




