第15話「温度」
「次はTime of Yearsの演奏です!張り切ってどうぞー!!」
蝶ネクタイをつけ、ラメがあしらわれた服を着た司会者が大きな声で叫んだ。
4人は緊張した面持ちで舞台に登場し、各持ち場に着いた。
悠馬は詩織の顔を見た。
詩織は悠馬と目を合わし、静かに頷いた。
続いて、聖菜の顔を見た。
聖菜は胸に手を当てながら、悠馬の目を見て微笑んだ。
最後に鈴音の顔を見た。
鈴音は悠馬の視線に気付かず、じっと観客席を見ていた。
「櫻田先輩……」
慌てて悠馬が客席を見ると、由紀子の隣に金髪の女性が座っていた。
「鈴音さん……鈴音さん!」
小声で呼びかける悠馬の声に気付き、鈴音は真剣な顔でマイクの高さを調整した。
鈴音がピックを咥えながら髪をゴムで結ぶ。
鈴音は大きく1回深呼吸をして、悠馬の顔を見た。
ドラムの4カウントの後にキーボードの和音が響く。
2小節過ぎた後に鈴音が歌い出した。
演奏が終了し、4人は次々に舞台裏に出て行った。
「お疲れ様ー!!」
鈴音が詩織を抱きしめ、続いて聖菜を抱きしめた。
鈴音が悠馬に近づいてきた時、鈴音の背後から声がした。
「鈴音!」
振り返った先には金髪の女性と由紀子が立っていた。
「櫻田先輩……」
鈴音の目に涙が滲む。
「良かったよ、鈴音。大人っぽくて、透明感があって、私にはできない良さがあった。」
優しい声に鈴音は溢れる涙を手で拭った。
鈴音の隣で由紀子は小さく拍手をしていた。
「よしっ!残りの演奏も聞いて行こうか!」
詩織が鈴音と聖菜に呼びかけ、3人が歩き出した。
悠馬は歩き出す3人の後ろ姿を見て立っていた。
ふと、鈴音が振り返り悠馬を見た。
「悠馬?どうしたの?行くよ?」
鈴音の呼びかけに詩織と聖菜も振り返った。
「俺……今幸せです……」
悠馬の目から涙が流れる。
「俺……色々あって……人とずっと距離を置いてたから。会いたいって人とか……行きたいって場所とか無くて……ずっと家にこもってました。」
3人は悠馬の頷いて聞いている。
「今、こんなにも心から会いたいって……話したいって人が居る……それが嬉しくて……」
悠馬はぐちゃぐちゃな泣き顔で言った。
3人は顔を見合わせて笑った。
聖菜が悠馬に向かって歩いて来る。
「悠馬、誘ってくれてありがとう……」
聖菜は小さい体で悠馬を抱きしめた。
聖菜に誘われるように鈴音と詩織が悠馬に駆け寄る。
「私も抱きしめたい!!ありがとう!!」
鈴音が悠馬を強く抱きしめた。
詩織は悠馬の泣き顔を見て吹き出すように笑った。
「不細工。かっこよくない……でも、元々かっこいいとこが好きなわけじゃないから……いいけど!!」
抱きしめられた時の詩織の温度は悠馬の身体に深く残った気がした。
緑涼祭が終わり、大学の中の灯りは1つ2つと消えていっていた。
悠馬は雨上がりのキャンパス内を1人でゆっくりと歩いていた。
何も考えず歩いていたが、悠馬の足はプレハブの方向に進んでいた。
ガラガラガラ……
扉の軋んだ音が響く。
悠馬はスイッチを押し、電気をつけた。
ベース、ドラム、キーボード……
悠馬は満ち足りた顔で楽器を眺めた。
そして、ギターに目をやった時、弦の隙間に1枚の紙が挟まっているのに気づいた。
悠馬は紙を抜き取り、おもむろに開いた。
「筑紫悠馬様 あなたにどうしても伝えたいことがあります。丘の上の鐘がある教会で待ってます。」
悠馬は紙をポケットに入れ、急いでプレハブを飛び出した。




