第13話「行動」
「…………」
悠馬は目をつぶった。
そして少しの沈黙の後、おもむろに顔を上げた。
バタン!
悠馬は突然立ち上がり、スウェット姿のまま自宅の扉を開け走り出した。
外は登校中の学生や出勤中のサラリーマンが歩いており、悠馬の走っていく姿に少し戸惑っている。
早く!もっと早く!!
悠馬は全速力で大学の校門を通過した。
悠馬は校門入ってすぐ右側の大きな建物の外階段を見た。
悠馬は大きく息を吸って階段を登り始めた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
悠馬は息を切らしながら階段を駆け上がっていた。
螺旋階段は永遠に続いているように思える。
諦めたくない……今度こそ諦めない。
悠馬は全身の力を振り絞り最上階の屋上に着いた。
切れる息の中、悠馬は周囲を見渡した。
誰もいない。
遅かったか……
悠馬は手を膝につき、俯いた。
「悠馬……?」
突然の呼びかけに顔を上げると、聖菜が目を丸くして立っていた。
悠馬は目に涙を溜めて、聖菜を強く抱きしめた。
「良かった……間に合った……」
聖菜は突然のことに戸惑いの表情をしている。
「俺の前から……居なくならないでください。」
悠馬は聖菜の肩を掴み顔を見ながら言った。
聖菜の目が滲み、涙がポタポタと流れる。
「聖菜は聖菜が思う以上に大事にされるべき人だよ。ここに……居て下さい。」
悠馬は必死で聖菜の目を見て言った。
すると、聖菜は涙を流しながら吹き出すように笑った。
「……ごめん……泣いちゃうくらい最高に嬉しいし……感動したんだけど……私死のうと思って屋上に来たんじゃないよ。」
聖菜の言葉に悠馬は驚き、聖菜から離れた。
「1時間目、この棟で講義があるの。早く着いちゃったから、屋上で休憩してた。」
笑顔で話す聖菜の表情を見て悠馬はしばらく呆然としていた。
悠馬と聖菜は屋上の隅に腰掛けながら空を見ていた。
「……高校生の時にね、母親が自殺したんだ。飛び降り自殺だった……」
悠馬は一言一言噛み締めるように言った。
「ショックで。とにかくショックで……それから家に引きこもるようになったんだ。学校に行って新しく大切な人ができるかもしれない。でも……その人を失う可能性もあるんだって……それが本当に怖かった。」
聖菜は真剣な瞳で悠馬の話を聞いている。
「でも……変わろうと思って。いろんな人と関わろうと思って。そしたら聖菜や鈴音さんや詩織さんに会えた。最高に幸せで。」
悠馬は目を潤ませながら言う。
「でも、聖菜が終わりにしたいって思うことがあるって言ったとき、急に不安になって。また大切な人を失うかもしれない……って。」
悠馬は顔を覆って俯いた。
「ごめんなさい……本当にごめん。言わなかったら良かった……」
聖菜も目を潤ませながら言った。
「いや……」
悠馬は涙を拭いて顔を上げた。
「言ってください。死にたい時は死にたいって。辛い気持ちになるかもしれないけど、それを聞いた方が聖菜を守れるかもしれない。もう逃げない。ちゃんと行動して大事な人を守りたい。」
悠馬の目は決意の気持ちに溢れていた。
「ありがとう……」
聖菜は悠馬の手を握って言った。
「……行こうか……私たちの居場所に。」
聖菜はニコッと笑って言った。
悠馬は聖菜の顔を見て小さく頷いた。
悠馬と聖菜はプレハブの前に到着した。
中からは詩織のドラムの音と鈴音の歌声が聴こえてくる。
聖菜がプレハブの扉を開けた。
悠馬は扉の前で足を止めた。
どんな顔をして会えばいいんだろう……
俯く悠馬を見て聖菜は悠馬の背後にまわり、背中を強く押した。
ガタン!
悠馬はプレハブの段差に躓き、入り口付近で派手に転倒した。
「ご……ごめん……」
聖菜が両手で口を押さえ、笑いをこらえている。
その瞬間、プレハブ内に居た詩織と鈴音が吹き出すように笑い出した。
「な……何その登場……!!」
詩織は悠馬をドラムスティックで指し示しながら言った。
「本当に……おなか痛い……」
鈴音もしゃがみ込み笑い転げている。
「す……すみません……長い間ホントにすみませんでした!!」
悠馬の姿を見た後、詩織と鈴音は顔を見合わせて笑った。
「もう吹き飛んだわ!!よし……練習するよ!練習!!」
詩織はシンバルを1回叩いて言った。
聖菜がキーボードの電源を入れ、悠馬がギターのチューニングを始めた。
悠馬がふと鈴音に目をやると、鈴音はまだしゃがみ込み肩を震わせていた。
「鈴音さん…………?」
悠馬は弦を弾くのを一回止めて声をかけた。
「いや……ごめん、ごめん……私一度ツボに入ると笑いが止まらないの……」
しゃがみ込む鈴音の足元には数滴の雫が落ちていた。




