第12話「漆黒」
「ダメだ……届かない……」
悠馬は天井を見上げて呟いた。
大学に行けなくなって3日間が経った。
悠馬はおもむろに携帯の着信履歴を見た。
鈴音……鈴音……詩織……鈴音……聖菜……聖菜……
悠馬は携帯の電源を落とした。
この感覚は経験したことがある。
高校生のとき、あの日から自分の身体が思い通りにいかなくなった。
あの時もそうだ。
心配してくれる友人が居たが、反応出来なかった。
友人のことは嫌いになった訳ではないのに、身体が動かない。
反応できないでいるうちに周りは離れていった。
今もそうだ。
3人のことを思えば思うほど、動けない。
この理由は自分でも説明できないのだ。
自分の電源も落としたい。
悠馬は目を瞑り、視界を漆黒に変換させた。
ピーンポーン……
インターホンが鳴り、悠馬は目を開けた。
最近は郵便配達等も対応出来ず、ポストに不在配達票が溜まっている。
ピーンポーン……
もう一度インターホンが鳴った。
「悠馬……?」
外から女性の声がした。
悠馬の目に涙が滲む。
何度も何度も聞いた声だ。
悠馬は声を出そうとしたが、思うように出ない。
「私は……私にはあなたが必要です……」
その声はいつもと違い、弱々しく感じた。
「不思議だね、前まで悠馬なしで生きていけたのにね……もう……なしではどうしようもなくなっちゃった。理由は話せないかもしれない……いや、理由なんて無いのかもしれないけど……とにかく……会いたい。」
悠馬は流れてくる涙を必死で手で拭った。
「ダメだね……急かしたらダメだ。いつでも待ってるから。」
その声は必死で自分に言い聞かせているように思えた。
「辛いことは話したかったら話してくれればいい。それを話してくれる悠馬を大切にしたい。話したくなかったら話さなくていい。それを言わずにいる悠馬を大事にしたい……今の悠馬を大事にしたいから。」
そう言い残して、悠馬は足音が遠ざかって行くのを感じた。
バカだ……情けない……
悠馬は顔を両手で覆った。
動きたい……会いたい……話したい……
悠馬は身体に力を入れようとしたが、結局立ち上がることが出来ず、目を瞑った。
残酷にも時は早く流れるもので、それから更に4日の時が過ぎていた。
窓の外の蝉の声は以前よりも音量が減り、朝方はTシャツ1枚では肌寒くなっている。
「行かないと……」
悠馬は重い身体をゆっくりと持ち上げた。
今日は緑涼祭前日だ。
ここまで大事な仲間とこの日のために頑張ってきた。
鈴音……詩織……聖菜……
3人の顔が浮かぶ。
乗り越えられない……
悠馬はその場に跪いた。
「ごめん……」
悠馬は顔を両手で覆い、両手が濡れていくのを感じた。




