第10話「神様」
辺りは暗くなり、提灯の穏やかな灯りが点々と灯っていた。
悠馬はベンチに腰掛けながら貧乏ゆすりをしていた。
「まずい……緊張する……!」
悠馬は目をつぶり、深く深呼吸をした。
「ほうほう、君は体がおっきいからすぐ居場所が分かったよ。」
突然の声掛けに悠馬は慌てて目を開いた。
悠馬の隣には紺色の浴衣姿の鈴音が腰掛けていた。
「……待った……?」
鈴音はニコッと笑った。
愛嬌のある笑顔と包み隠せない色気に悠馬は大人の魅力を感じていた。
「全然……全然!!待ってないですよ!!」
悠馬の慌てように鈴音は声をあげて笑った。
神社にはたくさんの屋台が出ており、老若男女が入り乱れていた。
「うわっ人すごい!はぐれそう……」
鈴音は小さな声で言いながら悠馬を見た。
「こういう時ってどうしたらカッコいいんだっけ?」
鈴音は悠馬の顔を見上げながら言った。
悠馬は戸惑っていたが、鈴音の手をぎゅっと握った。
鈴音は握られた手を見ながら満足気に微笑んだ。
次第に人が減り、屋台も1つ2つと撤収されてきた頃、2人は神社の境内付近に腰掛けた。
夜風が優しく吹き心地よく、鈴音と2人ここにずっと座って居たい気がした。
「ねぇ、神様って信じる?」
鈴音は急に悠馬に問いかけた。
「神様ですか……?うーん……難しいですね……」
悠馬は空を見上げながら言った。
「僕は元々……まあしんどいことがあって引きこもっていたので……その時は神様なんて居ないって思ってましたね……居るなら出て来い!!って」
悠馬は苦笑いしながら言った。
鈴音は悠馬の顔をじっと見ている。
「私はね、神様はあんまり信じないけど、運命は信じてみたいって思うの。」
鈴音は境内の奥の方に目をやりながら言った。
「もし悠馬が引きこもってギターを掻き鳴らしてなかったら……もし悠馬が浪人してなかったら……そうだったら私達会えてないわけでしょ?」
鈴音は透き通った瞳で悠馬を見た。
「過去の辛いことは話したかったら話してくれればいい。それを今話してくれてる悠馬を大切にしたい。話したくなかったら話さなくていい。それを言わずにいる悠馬を大事にしたい。」
鈴音は悠馬の目を見るのが少し照れ臭いのか持っていたカキ氷を見つめながら言った。
「今の悠馬を大切にしたいです。」
鈴音の言葉に悠馬は胸の中の不穏なものが溶けていくような気がした。
次の日の昼、悠馬がプレハブの扉を開けると聖菜と鈴音が既に練習を始めていた。
「あ、おつかれー!」
自然に話しかける鈴音の姿はいつも通りでまるで昨日のことが幻だったかのように思えた。
「お邪魔しまーす……」
扉に目をやると、由紀子が手下げカバンを持って現れた。
「すみません、由紀子先輩!呼び出してしまって……」
聖菜は申し訳なさそうに由紀子に言った。
実は聖菜と悠馬が加入して今まで、定期的に由紀子は練習を見に来てくれている。
聖菜にとっても良いアドバイザーになっていた。
詩織が加わり、全員での練習となった。
由紀子は聖菜の指先を見つめている。
「聖菜ちゃん、心配しなくても基本は出来てるから大丈夫よ。後は自信持って弾くだけだよ。」
由紀子はニコッとと笑いながら言った。
「注目ー!!実は緑涼祭用の衣装が届きましたー!!」
詩織は衣装を掲げて言った。
鈴音と聖菜は拍手をしている。
「とりあえず、試着しよう!!はいはい、悠馬出て行った出て行った!!」
悠馬は詩織に背中を押され、プレハブから追い出された。
悠馬に続くようにして由紀子がプレハブから出てきた。
「悠馬くん、ちょっといいかな?」
由紀子は悠馬に向かって小声で言った。
「聖菜ちゃんだけど……傷が増えてる。」
由紀子は悠馬の顔色を伺うように言う。
悠馬は身体の芯に冷たいものが通る感覚を覚えた。
「教えてる時、手を見るもんだから気になってしまって。明らかに新しい傷があったの。」
由紀子は不安そうに言った。
「そうですか……分かりました……」
蝉の声が響く中、悠馬は少し俯きながら呟いた。




