第9話「螺旋」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
悠馬は息を切らしながら階段を駆け上がっていた。
早く!もっと早く!!
螺旋階段は永遠に続いているように思える。
ドスン!
鈍い音が聞こえ、悠馬は立ち止まった。
涙がポタポタと自然に流れる。
悠馬は布団を掴み、思いっきり飛び起きた。
間に合わなかった。
今日もだ。
悠馬は涙で腫れたまぶたを右手で覆った。
着替えを済ませて家の扉を開く。
猛烈な熱気とともに蝉の声が響いた。
悠馬は自転車に乗りながら空を見上げた。
こんな日も空は晴れている。
あの日も今日のような晴れた夏だった。
「悠馬!!」
悠馬が信号待ちをしていると自転車の後部に重みを感じた。
後ろを見ると片手にアイスを持った鈴音が笑顔で座っていた。
「信号変わったよ!レッツゴー!!」
笑顔で片手をあげる鈴音を見ているとさっきまでの憂鬱が少し遠ざかった気がした。
悠馬は右脚に力を入れ、自転車を漕ぎ出した。
プレハブの扉を開けると詩織と聖菜がすでに練習を始めていた。
「うわっ、あっつい!!夏のプレハブって熱こもるんですね!!」
悠馬は手で顔を仰ぎながら言った。
「詩織、汗だく……」
鈴音は笑いながら言った。
「ドラムはエネルギー消費が激しいの!」
詩織がスポーツドリンクを飲みながら言った。
入学してから3ヶ月が経ち、このプレハブは完全に悠馬の居場所になっていた。
ここに来ればみんなが居て自然と安心した気持ちになれる。
悠馬はそれだけで充分だった。
「よーし、全員で合わせようか!」
詩織がドラムスティックを持ちながら言った。
ドラムの4カウントの後に聖菜のキーボードの音が響く。
「あっ……ごめんなさい!ちょっとずれてました!」
聖菜が言い、曲がストップした。
「オッケーオッケー!ちょっとテンポ落としてやろうかー」
詩織が汗をタオルで拭きながら言った。
最近、聖菜は不調である。
練習当初は聖菜の長年培ったピアノ技術が際立っていたが、残り3人の技術が上がった結果、元のやり方ではうまくいかないことが増えた。
練習の間の休憩の時間、悠馬と聖菜はならんで缶ジュースを飲んでいた。
「私……ちょっと遅れを取ってるよね……?」
聖菜は俯き加減で言った。
「小さい頃からピアノはやってきたけど、1人で弾いてきたから他の楽器と合わせるなんて初めてで……」
聖菜は缶ジュースに口を付けながら言った。
「俺もだよ。ずっと独学で1人でギターかき鳴らして来たから……難しいよね。」
悠馬は聖菜の顔を見て言った。
「でも……なんかさ。こうやって音が混じり合うのってなんか幸福感感じるんだよな。1人じゃないって……聖菜がいて、鈴音さんや詩織さんが居て……」
悠馬は飲み干した空き缶をゴミ箱に投げ入れながら言った。
「そうだね……楽しまないとね。技術的なことはまた由紀子先輩に教えてもらおうかな。」
聖菜は立ち上がりながら言った。




