第5話「応援」
「お待たせー!」
突然店の入り口から詩織が現れ、鈴音の横に座った。
「あ……お疲れ様です……」
2人きりじゃないのか……悠馬は少し俯いた。
「よし……それでは揃ったところでどんなバンドにするか決めたいと思います!」
鈴音は拍手をしながら言った。
「……前の時って誰がなんの楽器してたんですか?」
悠馬は鈴音の顔を見て言った。
「ごめん、説明してなかったね。櫻田先輩がギターボーカル、由紀子先輩がキーボード、詩織がドラム、私がベースだよ。」
鈴音は指を折りながら言った。
「櫻田先輩は本当に歌がうまかったからね。」
詩織はストローを口に咥えながら言った。
「筑紫くんがギター、鈴音がベース、私がドラムでいいと思うんだけど、キーボードが居た方がいいよね。後はボーカルを誰がするか……」
詩織は宙を見上げながら言っている。
「鈴音……もう一度歌ってみる……?」
詩織はどこか気を遣うように聞いた。
すると、さっきまで笑っていた鈴音の顔が少し曇った。
見たことのない表情に戸惑い、悠馬は詩織の顔を見た。
「ほら……裏軽音に移る前に色々あったって言ったでしょ?鈴音は移る前ボーカルをしてたのよ。私は鈴音の声好きなんだけど、鈴音自身は納得いかなくて移ってからはベースとコーラスに専念してた。」
詩織は鈴音の表情を気にしながら言った。
「歌いたい気持ちはあるよ……でも、櫻田先輩みたいに上手くできるか不安もある。」
鈴音はボソッと呟いた。
「あの……」
萎縮した声に2人は悠馬の顔を見た。
「僕、鈴音さんの歌聞きたいです。これから毎日のように聞けるかもしれないんですよね?最高じゃないですか!」
悠馬は照れくさそうにニコッと笑った。
鈴音と詩織は顔を見合わせて吹き出すように笑った。
「鈴音、こんなに熱狂的なファンが居て近くて応援してくれるなら仕方ないね。」
詩織は噛み締めるように言った。
鈴音はゆっくりと深く頷いた。
「何の曲にするか……それも大事よね……」
詩織は頬杖を付いて言った。
「筑紫くんってどんな曲聴いてるの?」
鈴音は悠馬の顔を見つめて言った。
悠馬は携帯を取り出し、プレイリストを開いた。
「最近の曲も聴きますけど、結構前のも聴いたりするんですよね……」
悠馬は直近で聴いていた履歴のページを見た。
「これ……」
ふと、鈴音は悠馬の履歴ページの曲のうちの1曲を指差した。
「知ってますか?結構前の曲ですよ。関西出身の女性歌手のアルバム曲です。やっぱり詳しいですね……」
悠馬は驚いた顔で言った。
「お父さんがよく家でかけてたの。なんか出だしとかすごく独特なのに次第にまとまって行く感じ?結構好きで……」
鈴音は画面の再生ボタンを押した。
透明感がありながらありきたりでもない……包み込むような音調だ。
「なんか定番じゃないのに落ち着くんですよね。」
悠馬はしみじみと言った。
「これにしたい。これ、歌ってみたい。」
鈴音は2人の顔を見て言った。
「鈴音が言うなら間違いないよ。」
詩織は優しく笑った。




