第4話「矛盾」
しばらく話した後、3人はプレハブから外に出た。
「じゃあ、私は次の授業があるから!」
詩織は自転車に乗って、講義室の方向に抜けていった。
「筑紫くんはもうこれで終わり?今日はオリエンテーションだけかな?」
鈴音はプレハブの鍵を閉めながら、悠馬に聞いた。
「そうです。今日はこれから家に帰ろうかと。まだ引越の荷物開け切れてないんで……」
悠馬は鈴音の顔を見て言った。
透き通った目……今にも吸い込まれそうだ……
悠馬は息を飲んだ。
「じゃあ、私も帰ろーっと。」
鈴音はニコニコと笑いながら歩き出した。
2人でしばらく歩いていると、数時間前までオリエンテーションを行っていた講義室の近くを通った。
周囲にはまだたくさんの部員がおり、勧誘活動を続けている。
悠馬は目立たないように道の端を歩いた。
鈴音は悠馬の様子を伺っている。
すると、鈴音が悠馬の手を引き、腕を組んだ。
「さすがにこんなラブラブ状態の人に声かけないでしょ?」
鈴音はニコッと笑った。
「……いいんですか?」
悠馬は緊張しながら鈴音に聞いた。
「私は幸せな状態でいれるなら演技することも大事だと思うよ。」
鈴音は優しく言った。
次の日、悠馬は授業後校舎外の掲示板を見ていた。
授業教室変更のお知らせ……校舎改修のお知らせ……悠馬はボーっとしたまましばらく眺めていた。
「おいっ!!何をボーっとしてるの!」
急に肩を叩かれ驚き振り返ると鈴音が自転車に乗りニコニコとこっちを見ていた。
「あっ……すみません……」
鈴音は美人で人一倍目を引くため、周りの学生もこっちを見ている。
「この後、何かある?」
鈴音は悠馬に聞いた。
「いえ……特に……」
悠馬はおずおずと言った。
「じゃあ、私に付いてくるんだね、筑紫くん。」
鈴音はおどけたように言った。
鈴音が連れて来たのは街角にある1軒のカフェだった。
木目調の内装はとてもお洒落で、悠馬にはまだ落ち着かなく思えた。
2人は4人掛けの入り口付近のテーブルに座った。
「いらっしゃいませ。」
注文を取りに来た女性はにこやかで、キッチンの奥には男性のスタッフが1人居た。
「ここは昔、夫婦が営む老舗の和菓子店だったらしいよ。ほら、あそこのケーキ並んだショーケース、昔は和菓子が並んでたらしい。閉店して廃屋になったのをここの夫婦が買い取ってカフェにしたんだって。」
鈴音は周りを見渡しながら言った。
男性スタッフは笑顔でオーダーを女性から確認している。
2人からは仲睦まじい関係が窺えた。
「なんか不思議ですね、夫婦がやってたっていうのは一緒だけど、和菓子と洋菓子は真逆というか……」
呟く悠馬の顔を見て鈴音は優しく微笑んだ。
「櫻田先輩がこの店教えてくれたの。何度も連れて行ってくれた。」
鈴音はコーヒーを口につけながら言った。
鈴音と向かい合って座っていると不思議な感覚になる。
美しいルックスに緊張してしまうにも関わらず、穏やかな気持ちだ。
この矛盾が彼女の魅力であり、悠馬はこの時間がずっと続いて欲しい。
そう思った。




