第2話「完璧」
「えー、年間の単位取得数が不足するとですね……」
悠馬は教室の端でメモを取りながら話を聞いていた。
大学の教室というものはここまで広いものなのか。
オリエンテーションなるものがやっており、ざっと200人以上は居る。
悠馬は辺りを見渡していた。
キーンコーンカーンコーン……
ありきたりなチャイムとともにオリエンテーションが終わり、ゾロゾロと生徒が教室から出て行った。
悠馬も荷物をまとめて外に出ると、急に何者かに声をかけられた。
「君、名前何で言うの?」
聞いて来た男性は筋肉質でユニホームを着ており、肩にパットを入れていた。
「筑紫って言います……」
悠馬が答えたときには既に周囲を同じユニホーム姿の男達が取り囲んでいた。
「君、身体おっきいね。アメフト部なんだけど、今度体験入部が……」
男性が近づいて言おうとした時に、別のユニホームの男性が声をかけてきた。
「そんなことよりウチのバレー部も今度新人歓迎会をするんだけど……」
悠馬が辺りを見渡すと、新人勧誘のために幾つもの部活がずらりと並んでいた。
その中でも悠馬は身体が大きいこともあり、運動部からの恰好の餌食になっていたのだった。
「すみません……僕全然運動……して来てなくて……」
悠馬は小さい声で言うが、周囲の人達は気にも止めていない。
「大丈夫、大丈夫!!みんな大学から始めるから!」
ラグビー部の大柄の部員が悠馬の肩に手をやる。
悠馬は不安気に辺りを見渡した。
その時、突然悠馬の手が強く握られ、引っ張られた。
「行くよ!いいから付いてきて!!」
声の主は1人の女性だった。
悠馬は女性に手を引かれ群衆から抜け出した。
女性は悠馬の手を引き、全速力で走り出した。
周囲は唖然としている。
悠馬は訳が分からなかったが、直感で悟った。
「この人に付いていくべきだ。」
桜の花びらが舞い散る中、悠馬は息を切らしながら無我夢中で走った。
しばらく走った悠馬と女性は校庭の隅にある古びたプレハブ小屋に辿り着いた。
小屋の前で女性と悠馬は息を切らせて座り込んだ。
悠馬はそのとき初めて女性の姿をしっかりと見た。
髪の毛は肩くらいの長さでパーマがかかっており、赤色のニットを着ていた。身長は155センチくらいで、目はパッチリとしており、かなりの美人な女性という感じだった。
「ごめん、驚かせちゃったね。」
女性は息を整えながら言った。
「私は木崎鈴音って言います。2年生ね。とりあえず、中に入って。」
鈴音は悠馬をプレハブの中に招き入れた。
プレハブの中に入ると悠馬はそこが何をする場所なのかすぐに分かった。
エレキギター、ドラムセット、ベース、キーボード……
「筑紫くん、楽器の経験は?」
鈴音はにこやかに悠馬に聞いた。
その目は透き通っていて、吸い込まれるような目をしている。
「独学でギターをしてたことはあります……高校のときあんまり学校行けてなくて……後浪人のとき……家で……まあ趣味の範囲です。」
悠馬は自信なさげに言った。
「……完璧。完璧だよ、筑紫くん!」
鈴音は悠馬の両手を取って言った。
「それより、何で僕の名前を?」
悠馬は目をパチクリさせて聞いた。
「あ……ごめん……アメフト部が聞いてるの盗み聞きしちゃった。」
鈴音は高らかに笑った。
「でも……その名前っていうのもあって直感で連れて来たんだからね!」
鈴音は明るい声で話している。
悠馬は状況は飲み込めなかったが、不思議に幸せな感覚に包まれた。
高校のときの引きこもり時代、浪人生時代、そんなコンプレックスを何も気にすること無く高らかに笑う鈴音の姿に妙な安心感を感じたからだった。




