第20話「恋愛」
「ドーン!!」
健人は腹の上の衝撃にたまらず目を覚ました。
目を開けると蓮が満面の笑みで健人の腹の上に座っていた。
「ママー!!パパおきたよー!!」
蓮は台所に居る陽菜の元に駆けて行った。
健人が不意に携帯に目をやるとショートメールが来ていた。
送信元はつぐみだった。
「夜遅くにごめん。やっぱり伝えたいことがあって。今日の仕事終わりにいつものベンチに来てもらえますか?」
つぐみからの初めてのメールだった。
健人は了解の返信を行い、携帯を閉じた。
事務所に着き、事務作業をこなした健人は街に繰り出した。
そして、導かれるように、幸志の住む団地に向かった。
健人が自転車を停めていると、杖を持った幸志が玄関先から現れた。
「あ……石田さん……ごめんなさい、お出かけですか?」
健人は問いかけた。
「成瀬さん。わざわざ様子見に来てくれたんですね。」
幸志の顔色は昨日より良くなっていた。
「ひまわり苑に行こうと思います。」
幸志は健人の顔を見て言った。
「毎日、毎日、行こうと思います。」
幸志は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「考えてみたんです。昔の話で恥ずかしいですが、若い時私が未季江に一方的に惚れて、猛アプローチしたんですよ。毎日毎日会いに行って……そしたら根負けして付き合ってくれました。」
幸志は目を細めて話している。
「昔のことは分からなくても、これから毎日ひまわり苑に行ってもう一度猛アプローチしていったら根負けしてくれるんじゃないかって。もう一回恋愛して口説き落としてみようって。」
幸志は笑いながら健人を見た。
「諦めないですよ。私は仮に生まれ変わっても未季江と一緒になりたいんです。」
幸志の目には光とこれからの試練に立ち向かおうとする信念が見えた。
定時終了のチャイムが鳴り、健人は間も無く自転車に乗った。
健人が5分ほど漕いだところで携帯が鳴った。
着信元は陽菜だった。
「健人、蓮か急に高熱出して吐いちゃったの。病院に行って今は家で寝てるんだけど……」
陽菜の声から強い焦りの感情が伺えた。
「分かった。すぐ帰る。」
健人はすぐに自転車を漕ぎ出した。
健人は自転車で自宅に向かいながら、つぐみに電話をかけた。
着信が鳴り、2コール目でつぐみが電話に出た。
「立岡さん、ごめん……子供が熱出してしまって……今日行けそうに無いんだ……」
健人は息切れ混じりに言った。
「……そうなんだ……大丈夫だよ。ありがとね……」
そう言ってつぐみの電話が切れた。
自宅に着くと蓮が走って駆け寄り健人の足に抱きついた。
「パパー!!」
蓮は健人の顔を見ながら嬉しそうだ。
「……蓮……大丈夫なのか?」
健人は陽菜の顔を見て言った。
「出してもらった薬飲んだら元気になって遊び出しちゃった。蓮、あんまりはしゃぎ過ぎたらダメよ。」
陽菜は少し安心した表情で言った。
健人はしゃがみ込み、蓮を優しく抱きしめた。




