第17話「真剣」
西島との面談を終えた健人は病院の廊下を歩いていた。
病院の出口に差し掛かった時、近くの広い部屋から声がした。
「成瀬さん!」
声の主は幸志だった。
部屋はリハビリ室で、幸志は歩行器を使いながら歩く練習をしていた。
「成瀬さん、ちょっと待っててくださいね!」
幸志は近くの病院スタッフに声をかけ、健人をリハビリ室に招き入れた。
健人はリハビリ室に入り、幸志とベンチに腰掛けた。
「お久しぶりですね、入院生活はどうですか?」
健人は幸志の顔を見ながら聞いた。
「リハビリは辛いです。本当に挫けそうになるけど、頑張ってますよ。早く未季江と一緒に暮らしたいですからね。」
幸志はずり落ちた眼鏡を上げながら笑顔で答えた。
「未季江を施設で預かってもらって本当に助かってます。先生が言うにはこのままいくと、3月末には退院出来そうなんですよ。やっとまた未季江との普通の暮らしに戻れます。」
幸志は目を細めながら言った。
健人と幸志がしばらく話をしたところで、リハビリスタッフが幸志を呼びに来た。
「また、何かあったら言ってください。力になりたいと思ってますので。」
健人は明るい声で言った。
終業後、健人は自転車に乗り、いつもの丘の上のベンチに向かった。
到着した頃には既につぐみがベンチに腰掛けていた。
「良かった……来てくれた。」
つぐみは健人を見つけ、ベンチから立ち上がった。
「待っててくれたの……?来なかったらどうするの……?風邪引くよ?」
健人は目を丸くしてつぐみに聞いた。
「風邪……人を待っていて風邪を引くってなんか素敵だと思わない?」
つぐみはニコっと笑って健人に問いかけた。
「それに……今日は来てくれるかなって思ってたから。」
つぐみが話し終わると同時に教会の鐘が鳴った。
「今日、担当してる人から嬉しい言葉をもらったんだ。」
健人は今日西島と会ったときの一連のやり取りをつぐみに話した。
「救われたって……会えて良かったって言われて、こっちこそ救われた。救えない命もあるかもしれないけど、一生懸命やってたら確実に救えることもあるんだって。今までも、これからも……」
つぐみは優しい表情で健人の話を聞いている。
「自殺は‥‥止められない。ドラマやアニメのように今まさにしようとしてる時に駆けつけるなんてよっぽど運が良くないとできない。出来ることは‥‥日々真剣に向き合って少しでも関わりを積み重ねるしかない。」
健人は組んだ手のひらを見つめながら呟いた。
「とにかく……頑張って真剣に向き合っていかないと何も生み出せないもんな。悲しい結果もあるかもしれないけど、やっていくしかないね!」
健人の表情は清々しい顔に変わっていた。
「少なくとも……私はあなたに救われてる人だよ。」
つぐみが健人に言う。
健人は少し考え込み、口を開いた。
「あ……目黒さんの一件か!そんなのもあったね、懐かしい!」
健人は笑顔で答えた。
「うん……あの時も……助けてもらった……」
つぐみは微笑みながら言った。
空は日が沈みかけており、遠くに月が見える。
「もう少ししたら日も長くなって来るかな……」
つぐみはボソッと呟いた。
「あ、そうだ。病院で幸志さんに会ったんだよ。一生懸命リハビリしてた。3月末には退院して自宅に帰れるって。」
健人は嬉しそうにつぐみの目を見て言った。
「そうなんだ。やっと未季江さんと暮らせるわけね。」
つぐみは空を見ながら答えた。
「幸志さん、立岡さんにも会いたいって言ってたよ。あの人は私の命の恩人だ!って。」
健人はつぐみの肩を叩きながら言った。
「そうなんだ。私も誰か救えてるなら良かった。」
つぐみはニコっと笑った。




