第16話「覚悟」
健人は小高い丘を登っていた。
空は晴れ渡り、緑の芝が一面に生えている。
丘の頂上についた所に古びた鳥居があるのに気付いた。
健人は鳥居を見つめた後、元の登って来た道を眺めた。
「かなり登って来たな……どこから歩いて来たんだっけ?」
健人は呟いた。
「健人。よく来たな。」
声に気付き振り返ると一哉が鳥居の奥に立っていた。
「一哉……」
健人の目に熱いものが込み上げて来る。
「悪いが、この先は入ったらダメなんだ。道を間違えてる。」
一哉は真面目な顔で言った。
「え……せっかく登って来たのに……」
健人は理解できず俯いた。
「あそこに大きな教会があるだろ?あれが目的地だ。行く途中に色んな人に会うと思うけど、健人ならうまくやれる。ここまで来るのも大変だったと思うけど、全て無駄じゃないよ。」
一哉は優しく笑った。
健人は何故かこれ以上、ここに居てはいけない気がして振り返り歩き出した。
「健人。」
呼ぶ声に健人はまた振り返った。
「ありがとな。」
一哉は小さく手を振っていた。
夢の余韻に引っ張られながら、健人は事務所に到着した。
パソコンを開き、スケジュールを確認する。
「そうだ……」
健人は呟いた。
今日は西島との面談日だ。家での生活ができない事実を伝えなくてはいけない。宣告の日だ。
健人は全身の力が強張るのを感じた。
病院に着くと外来のスペースには人が多く、賑やかな空気が流れていた。
「成瀬さんですね?こちらへどうぞ。」
看護師に案内され、健人は面談室に通された。
「西島さん、連れて来ますね。病気の関係で少し言葉が聞き取りづらいかもしれません。」
看護師は会釈して面談室を出た。
しばらくして看護師が車椅子に乗った西島を連れて来た。西島は以前よりかなり痩せている様子で、腕や足が細くなっている。
「では、また終わったら呼んでください。」
看護師は頭を下げて部屋を出た。
「西島さん、お久しぶりですね。調子はどうですか?」
健人は精一杯の笑顔を作り呼びかけた。
西島は健人の顔を見てゆっくりと頷いた。西島の反応から話をする行為が辛く、出来る限りやり取りを最小限に抑えた方がいいことが伺えた。
あまり直接的な表現はしたくない。でも、伝えなくてはいけない。健人は西島を見つめしばらく黙った。
「…………家のことですかね?…………」
突然西島が大きく息を吸った後話し出した。
「……解約……します……」
西島の発言に健人は驚きを隠せなかった。
「……自分のことは……自分が1番分かりますよ……私はもう長くない……少なくとも……家に……帰れるほど良くはならない……」
西島は1つ1つ大きく息を吸いながら話す。
「……多分……あなたのことだから……私がそのあたりを……不安に思ってるんだろう……ってそう思って来たんじゃないですか?」
健人は西島を見つめゆっくりと頷いた。
「……入院してると……色んなこと……考えるんですよ。そのことは……もう私の中で……覚悟できてます……」
西島は苦し気に笑った。
「……1つ不安なことが……あったんですが……それも解決しました……」
西島は俯き加減で少し笑った。
「不安なこと……?何ですか?」
健人は身を乗り出して聞く。
「……成瀬さん……あなたと……死ぬまでに一度も……会えないんじゃないか……って……そう思って……それが不安でした……」
西島は健人の目をしっかり見て言った。
「……会えて本当によかった……」
健人は全身の力が緩んでいくのを感じた。
「……どうしようもない私と……あなたは……向き合ってくれました……演技だったかもしれないけど……怒ったり……励ましたり……私はあなたに……救われました……コロナで会えなくなって……バチが当たったなって……思ってたけど……最後に会えて良かった……」
健人は手で目を覆いながら首を横に振った。
「……もっと……マシな人生なら……よかったな。もし……生まれ変われるなら……私はあなたみたいな人になりたい……」
西島は優しく笑いながら言った。




