第14話「失格」
次の日、健人が自転車に乗り職場に着くと駐車場にパトカーが停まっていた。
一瞬、健人の身体に冷たい空気が走る。
健人は足早に事務所へと急いだ。
事務所の窓口には2人の警察官が立っており、まだコート姿の林と話していた。
「成瀬さん!」
林は健人を見つけ、声を掛けた。
警察官のうちの1人が健人の方に向かって来る。
「朝早くすみません。成瀬さんですね?」
健人は静かに頷いた。
「言いづらいのですが……今朝重盛忠雄さんがご自宅で亡くなっているのが発見されました。」
健人の身体が強張る。
窓の外はまだ白く霧がかっていた。
健人は警察2人に移送されて重盛の家に着いた。
2人は家の扉を開けて躊躇うことなく家の中に入って行く。
健人は扉の前で足を止め、動けなくなった。
「どうしたんですか?行きますよ?」
警察官のうちの1人が健人に声を掛ける。
「……はい……。」
健人は前を向き、家の中に一歩足を踏み入れた。
家の中は異様な空気感が漂っていた。
一般の家にあるようなテレビや電子レンジ、冷蔵庫のようなものは全く無く、服がいくつか床に畳まれて置かれていた。
そのほかにはテーブルの上に固定電話が一台置かれているだけで、人がとても住むような家では無かった。
テーブルの上にある固定電話を見ると、一部の文字盤の印字がすり減って消えかけていることに気づいた。
「0……1……3……5……6……7……」
健人は口を手で覆った。
「あ……なんか手紙みたいなものが出て来ましたよ!」
警察官が一枚の紙をもう1人の警察官に見せている。
健人は恐る恐る中を覗き込んだ。
「本当にすみません。今までありがとうございました。神様、私は今後もし生まれ変われるとしても私にだけは生まれたくありません。」
健人の握った右手が静かに震えていた。
「お疲れ様です。あっ……今日は成瀬さんいらっしゃらないんですか?」
つぐみは事務所に着くと付けていた手袋を外しながら林に聞いた。
「あ……立岡さん。お疲れ様です!成瀬さんね、午後から調子悪くなって帰っちゃったんですよー……担当の人が良くない亡くなり方しちゃったから……」
林は頭を掻きながら話す。
「何か代わりに聞いておきましょうか?」
林は窓口に置いてあったメモを取った。
「いいえ……また直接話すから大丈夫です。」
つぐみはニコッと笑って、事務所を後にした。
カーンカーン……
健人はベンチに座って鐘の音を聞いていた。
空は既に陽が落ちつつあり、夕闇が向かって来ている。
健人は空を見上げ、目を瞑った。
「健人……大変なことが起きた。」
電話の向こうで康太が息を切らしている。
「何だよ……?大丈夫か、お前?」
健人は戸惑いながら答えた。
「一哉が……一哉が死んだ。自殺だって……」
康太の言葉に健人は息が一瞬止まるような感覚を覚えた。
一哉の家に着くと、一哉の父親が健人を出迎えてくれた。
「健人くんだよね……一哉と昔から仲良くしてくれてありがとう。一哉は大学生になって君と離れた後も君の話をよくしてたよ……本当にありがとうね。」
父親は涙ながらに健人にお礼を言った。
「一哉はね、就職活動のことで悩んでたんだよ。何度も私に相談はあったんだけど……親身になって聞けていなかったかもしれない……」
父親の目から涙が落ちる。
健人は口を開いた。
「お父さん……ごめんなさい。僕は……僕は友達失格です。僕は大学に行ってから一哉に全然会えてなくて……最近の一哉の悩みもどれくらい追い詰められてたのかも本当に知らなかった。手を差し伸べられなかったんです……」
健人は下を向き、茫然とした顔で言った。




