第13話「時間」
健人は事務所に戻り席につき、おもむろに電話の受話器を取った。
「お疲れ様です。福祉課の成瀬です。すみません、西島さんの話なのですが……」
健人は病院の相談員に連絡し、西島と面談出来ないか打診した。
相談員よりコロナ感染予防の件を医師と相談した上ですぐに報告すると回答があった。
会えるなら面と向かって伝えることが全てだ。
この仕事は時折このような場面に遭遇する。
残酷な話を相手の目を見て伝える精神力が要る。
「だから、あなたは1人になるんですよ!」
健人は頭を抱えた。
あの時、何故もう少し寄り添えなかったのか。
何故あのようなきつい言葉を浴びせてしまったのか。
後悔は募る。
プルルルルル……
健人の目の前の電話がコールし、瞬時に受話器を取った。
「はい……はい……そうですか、ありがとうございます。」
健人は受話器を置いた。
相談員の調整により、2日後に西島と面談できることが決まった。
健人は安堵とともに緊張感が全身を駆け巡るのを感じた。
「成瀬さん、さっき電話されてる間に重森さんから電話ありましたよ。」
林が健人に声を掛けた。
「あ……そうなんだ……なんか言ってた?」
健人がパソコンに手をやっている林を見ながら聞く。
「いや、いつも通りです。今までありがとうございました……って。話は大体聞かせてもらいました。」
林は苦笑いをしながら答えた。
「そっか……ありがとう。」
健人はできる限りの笑顔で礼を言った。
終業後、健人は自転車を押しながらゆっくり歩いていた。
陽が落ちるのが早くなり、空は紫掛かっている。
健人は深呼吸をして空を見上げた。
「一哉。俺、カウンセラーになりたいって思うんだ。」
学校からの帰り道、健人と一哉はアイスクリームを舐めながら河川敷を歩いていた。
「カウンセラー?」
一哉は溶け掛けたアイスを慌てて下から舐めながら聞いた。
「うん。ほら、俺母さんのこともあって、出来れば人を助けられるような仕事につきたい。大学に行って資格取って……カウンセラーの仕事がしたい。」
健人は持っていたタオルで汚れた手を拭きながら言った。
「いいじゃん!お前優しいからな。向いてるよ!!それに頭いいし、絶対なれる!!」
一哉はニコニコと笑いながら健人の肩を叩いた。
家に帰り扉を開けると、陽菜が居間から出て来た。
「おかえり。今日疲れたみたいでもう寝ちゃった。」
陽菜が小声で言う。
寝室を覗くと、蓮は掛け布団を抱き抱えるようにして、横向きに寝ていた。
健人は寝ている蓮のそばに横になり、後ろから蓮を抱きしめた。
大切な人を時間が許すうちに悔いのないように抱きしめる。
それ以上に大切なことなどない。
健人は静かに目を瞑った。




