第12話「宣告」
駅のホームには老若男女様々な人がいる。
健人は列の一番後ろに並び、電車が来るのを待っていた。
プルルルルル……
大きな音と共に、電車が到着し、中からたくさんの人が降りて来た。
それと入れ替わるように電車に乗る人達の列が進み、健人も電車に乗った。
「健人!」
聞き慣れた声に振り向くと、駅のホームに一哉が立っていた。
「あ……久しぶり……元気か……?」
健人が問いかける。
「……まあな……」
一哉は苦しそうな顔で笑った。
その途端、電車の扉が閉まった。
もっと話がしたい。
健人は力を振り絞るが声が出ない。
扉を無理やり開こうとするが、ビクともしない。
電車は音を立てて緩やかに動き出した。
「待ってくれ!!」
健人は声をあげて目を覚ました。
体中が大量の汗で濡れており、頭がズキズキと痛む。
健人は頭を抱えながら静かに起き上がり、頭痛薬を飲んだ。
「うわっ……積もってる……」
健人はカーテンを開け、声を漏らした。
「ゆきーー!!!」
蓮がパジャマ姿で部屋中を走り回っている。
「こらこら、走らないよー!」
蓮を追いかける陽菜を見ながら健人はダウンジャケットを羽織った。
「おはようございます!寒いですねー!!もう2月末だから当たり前か。」
林が付けていたマフラーを外しながら呟く。
「でも、もう期末になるのか……早いな……」
健人はカレンダーを眺めながら、目を細めて言った。
プルルルルル……
突然、健人の前の電話がコールした。
健人はダウンジャケットを半分脱いだ状態で受話器を上げた。
「朝早くすみません。村上と言います。」
聞き慣れない女性の声に健人は首を傾げた。
「私、西島さんの家の家主をしてまして。ちょっと相談事があるんですけど、西島さんの家まで来てもらうことってできますか?」
健人は承諾し、半分脱いだダウンジャケットを改めて着た。
健人が自転車の鍵を持ちながら駐輪場に向かっていると、つぐみが遠くから歩いてくるのを見つけた。
「おはよう!寒いね……ごめん、うちに用事だった?」
健人は両手を擦りながら言った。
「いや、林さんの担当ケースの件だから大丈夫。もう、出発?相変わらず忙しいねー!」
つぐみは笑顔で答えた。
一面の雪景色がつぐみの白い肌に馴染んで、一層彼女の透明感を引き立てている。
「あっ、この前……ありがとう。義理って分かってても嬉しかった。」
健人は照れ臭そうに言った。
「ううん……」
つぐみも恥ずかしそうにそっと笑った。
西島の家に着くと、家の前にゴミ袋を持った女性が鎌を持ち草むしりをしていた。
「おはようございます。家主さん……ですかね?」
健人の呼びかけに気づき、女性はおもむろに振り返った。
「あっ村上です。すいません、朝早くから……」
家主は50から60歳くらいの女性で、厚手のコートとニット帽を身につけていた。
「西島さんのことなんですけど……詳しくは知らないけど入院してるんですよね?家賃を4ヶ月くらい払って無くてね……」
家主は小声で囁くように言った。
「申し訳ないけど……このまま滞納が続くと退去してもらわないと行けなくなっちゃう……入院は長くなるんですかね……もう家に戻れない場合もあるし……」
家主は深刻な面持ちで話している。
健人は本人とやり取りをしてみる旨を伝えて家を後にした。
西島の今の状態は病院相談員からの情報から知っていた。
脳梗塞で入院した西島は体に麻痺が残り、車椅子状態である。食事も自力では摂れず、常に介護が必要な状況になっている。時折、食事をとることも難しく、点滴での栄養摂取となっている。
現状、自宅で生活できるか……答えはNOである。
病院の見解ではこの先、病院を転々とするか介護施設に入るかの選択肢しかない。
悲しいことに西島は自宅以外の場所で一生を終えるのである。
「俺あの家好きなんだよ!刑務所なんかじゃなくて、あの家で死にたいの!」
……西島の大きな声が脳裏に響く
家の退去の話をすることは、西島にとってあての見えない死の宣告のようなものである。
健人は目を瞑り深く息を吸って空を見上げた。




