隙間風 欠けたる月にも 丸い縁
通信は切れた。何も返ってこない。
「夏美、なんでお前が。」
僕は、初冬の冷たい空気の中を夏美の家に向かって走った。
「ほら、来たでしょ。はいはい、主役はこっちに座る。」
僕はわけもわからず、座敷のテーブルを挟むように着物の女性の正面に座らされた。
「ほらね。単純でしょ。」
「ふふふ。」
そう笑う声に聞き覚えがあった。
「ウミさん?」
すっかり、夏美に騙された。
「今度こそ、ちゃんとお見合いしてよ。」
夏美のやつすっかり仲人気取りだ。
「こいつなら絶対安全、人畜無害だから。浮気なんて度胸ないし。あーあ、もう少し大きかったら私のものにしたのにな。」
「夏美、そこはもう少し小さかったらだろ。」
僕は自分の胸の前で両手を上下にスライドした。
「お兄が板女好きってことぐらい知ってるわよ。」
夏美は怒って部屋を出て行った。
「すいません。あんなやつの相手しなくていいのに。」
「んー。たぶん彼女の本音じゃないかしら。」
「いや、あいつと一緒にいると口論になっちゃって。たぶん、あいつもわかっています。」
「えーと、自己紹介からしたほうがいいかしら。岡崎ウミ。葬儀会社に勤めています。」
「葬祭コーディネーターの木津口タケル。・・・って、それより、どうしてこんなことに。」
「夏美ちゃんがアフリカのボーイフレンドに着物文化を教えたいって呼ばれたら、またこんな流れに。」
彼女は右斜め上に目をやりながら答えた。
「ウミさん、人が良すぎますよ。どうしてお見合いをしようと?」
「どうしてお見合いをやめたほうがいいと?」
「それは・・・あなたが好きだから。」
「それって板女ってこと?」
「いえ、落ち着くんです。聖母の微笑みというか。」
「わたし母親ですか?」
「いや、そういう意味じゃなくて。一緒にいて落ち着けるんです。今度はあなたが答える番ですよ。」
「馴れ初めを聞かれた時どうします?お見合いって言いたいじゃないですか。」
彼女はモジモジしながら答えた。
「変なこと聞いていいですか?男の人って胸とか、お尻とか大きいほうがいいって本当ですか?私、女性として魅力ないですよね?」
「そういう人多いようですけど、僕にとっては逆です。僕は女性らしさは求めていません。そういうアピールは嫌いです。」
「もしですよ。もし私の胸が大きかったら嫌いになりますか。」
何が正解かわからない。ただ、二人とも大人だ。結婚には性的相性というのは絶対ある。ここは正直に答えるしかない。
「それは、同姓だったら結婚しますかというのと同じです。最初から候補外です。その時は、今のウミさんとまったく別人になってたと思います。」
「実は、私もあそこの大きい人は、怖いんです。」
さすがに、さわって確認してもらうわけにもいかない。
「小ささなら自身あります。」
こんな答えでいいのかな。
「はい、見てますから。」
「まだ、出て行った時のこと怒ってますか?」
恐る恐る尋ねた。
「怒ってませんよ。女が怒鳴ってる時は理解して欲しい時なんです。そうやってフラストレーションを発散させてるんです。無視するようになったら、本当に怒っている時です。」
女性の心理って難しい。本当に男とは別の生物だと思う。
一度切れたと思った縁が、かろうじてつながっていたことを仏様に感謝した。




