激昂の君に追われて 秋の野良
彼女の部屋を出てからというもの、仕事も手につかない。なので戻るのを期に退職した。どうせ戻ってもすでに自分の居場所はない。退職金と失業保険でしばらくは暮らせるだろう。もう三ヶ月。あれから彼女とは互いに連絡もとらなくなった。
「いつまで、仕事もしないで遊んでんのよ。」
毎日のように母親が電話で怒鳴る。
「まったく、こんなバカだとは思わなかったわ。今からでもいいから彼女に土下座でも何でもして謝っておいで。」
そんなこと言われても、僕にも僅かだがプライドがある。無職のままでは会えない。
都会にはバイトやパートならいくらでもある。しかし、正社員となると何らかのスキルが求められる。僕に残っているのは、せいぜい現場で知り合った仲間たちだ。だが、彼らとて僕を雇うほどの余裕は無い。
「退職された。それで迷いは消えましたかな。」
後日、退職後の事務手続きを終えたその足で、僕は住職に別れを告げに行った。
「いえ。あの時は迷いは無かったんですが、今はまた迷ってます。」
「迷いというのは、生きている限り沸いてきます。沸騰し続けるお湯からいつまでも泡が出続けるようなものです。迷いの元はすべて己の心の中にあります。火を止めれば、泡も止まります。焦っていては何も解決できません。心を落ち着け、自分が本当は何がしたいのかよく考えることです。」
住職の例えはいつもわかりやすい。
僕の願いはひとつだ。ウミさんと一緒にいたい。できるなら結婚したい。そのためには主夫という道もなくはないが、それでは彼女の負担になる。彼女が横浜という都会で安心して働けるには、僕にもそれなりの収入が必要だ。
横浜では家賃もバカにならない。寒くなってきたので節約のため実家に戻って、春に向けての就職情報を集めるか。




