バレンタイン 本命デート 義理はチョコ
実家から帰って、一週間ほど過ぎたころのことだ。突然、朝、家を出る前に、
「今日は早く変えて来てください。」
と言われた。
彼女は切れると怖いので、言われた通りにする。夕方、急いで帰るが誰もいない。コタツの上に
「山下公園にきて。」
と書いてある。なんだ、手の込んだドッキリか?とにかくそれなりに着替えて、山下公園へと向かった。横浜といっても広い。バスで行っても30分以上はかかる。
「こんなことなら、営業車を借りとくんだった。」
後悔しても遅い。自転車は寒いし坂も多い。バスに乗って公演に着いた。日も暮れたというのに、ライトアップされて明るい。
「今日は随分、カップルが多いな。」
人込みの中、携帯で連絡をとりながら落ち合う。
「今日は、夕飯を外で食べようと思って。心配しないで、私が奢るからね。」
彼女はいつもより濃い目の化粧をしている。とはいっても、世間ではノーメークといっているレベルだ。仕事場から直接来たのか、服装はいつもの通勤着だ。
僕たちは彼女が予約したイタリアンレストランに入った。僕は格式ばったフレンチより、ラフなイタリアンのほうが好みだ。理由は単純で、ナイフやフォークの順番を悩まなくて済むからだ。
二人とも、酒は飲まない。食事が来るまで会話をして待つ。
「職場の皆は、男性スタッフが居なくなって、義理チョコを渡さなくてよくなったと喜んでましたよ。」
そうか、今日はバレンタインだったか。道理でカップルが多いわけだ。昔は何度か夏美が義理チョコをくれたこともあったっけ。他にはもらった記憶がない。今日は、彼女から貰えるだろうか。
食事が進んでも、一向にチョコが出る気配がない。そりゃ、明るいレストランで渡すわけないか。きっと外に出てから、イルミネーションのか輝く公園とかでだ。
食事はおいしかったが、チョコが気になって何を話したか覚えてない。腹ごなしもかねてぶらぶらと二人で歩く。どこで、渡すんだろう。なにか、サプライズでも仕掛けてるのかな。ドキドキしながら歩く。しかし、全く出てくる気配がない。街をぶらついた後に、自宅に戻った。
職場から直だったから、きっと家にあるんだ。そりゃ、朝から持ち歩くわけないよな。溶けてたら幻滅だ。風呂に入る。きっと見てない今、準備しえるに違いない。いつもより、急いで風呂から出る。部屋の中を見まわすがそれらしものはない。牛乳を取り出しながら、冷蔵庫の中を探すが、やっぱり何もない。チョコの匂いも残ってない。
ついに、寝る時間になった。もしかしたら、クリスマスのように夜中に枕もとに置いておくとかじゃないかな。そわそわしながら寝袋に入る。やがて、彼女の寝息が聞こえてきた。寝つきのいい僕もすぐに意識を失った。
朝、目覚ましの音で、起きる。そうだ、チョコ。枕もとを捜すが何もない。僕は仕事の日は朝食べない。我慢できず一人朝食をだべる彼女に尋ねた。
「ねえ、チョコはないの?」
彼女は眉をちょっとしかめた。
「え?欲しかったの。チョコをあげるのは義理だよ。」




