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遠雷に 君思うは 「我欲」か

 夏も終わろうというころ、僕と彼女は大喧嘩をした。

「最近、仕事ばっかりで、ろくに休んでないじゃないか。」

「変な病気が流行って、忙しいんだからしょうがないでしょ。そっちこそ、早く東北に帰ったら。」


「やっちゃった。きっと病気でいらついてたんだ。」

 蒸し暑い夏の夜だ。通りを歩きながら、謝るべきか考えていた。もし、このまま会えなかったら合鍵を返さなきゃ。部屋についた後、寝つけずにいると真夜中にメッセージが届いた。

「ごめんなさい。言い過ぎました。」

 その後、またメッセージが来た。

「あなたは、やがて向こうへ戻るんでしょ。だったら、もう会わないでいましょ。」

 そんな先のことはどうだっていい。今が大切なんだ。

「君のことが心配なんだ。それに戻ったらまた一人ぼっちだ。」

「さようなら。あなたなら大丈夫。夏美ちゃんと。」

 メッセージはそこで切れた。夏美がどうしたっていうんだ。


 嫌な予感がする。外はいつの間にか激しい雷雨になっていた。傘も差さず僕は急いで彼女の部屋に行った。チャイムを押しても返事がない。まさが、病気が悪化したんじゃないだろうな。医者が死ぬこともあるっていってたし。まだストーカのことも未解決だ。ドラマだとこんな時に襲われるんだっけ。鍵がかかっている。が、幸いまだ合鍵を持っている。急いで玄関に入ると風呂場から激しいシャワーの音がしている。

「やばい。死ぬ気じゃないだろうな。」

 一瞬リストカットが頭をよぎった。

「ウミさん、死んじゃダメだ。」

 僕は勢いよく、浴室のドアを開けた。彼女はシャンプーだらけの頭で振り返って呆然としている。僕も頭が真っ白だった。

「キャー!」

「ごめん。」

 彼女の叫び声で正気に戻った僕は慌ててドアを閉めた。


「なんですかいきなり。」

 風呂から出た彼女は相当怒っている。

「ごめんなさい。もしや自殺しようとしてるんじゃないかと思って。」

「私はそんな弱くありません。」

 彼女はパジャマを着て、僕の正面に座った。

「見たでしょ。エッチ。」

 うそはつけない。でも、肯定したら軽蔑されるかもしれない。

「どうなの。」

 詰め寄る彼女に、僕は陥落した。


「で、どうだった。何が見えたの。」

「背中に、いくつも傷がありました。」

「後ろだけ?前は。」

「小さかったです。」

 彼女は顔を赤くした。

「やっぱり、見たのね。幻滅したでしょ。」

「いえ、素敵でした。美しいと思いました。」

 嫌われる覚悟で、正直に話す。


「うーん。なんか不公平よね。」

「どうしたら許してくれますか。何でも言ってください。」

「取りあえず、濡れた服を着替えて。下着はないけど乾くまで私のパジャマを着て。」

 彼女は、少し落ちついたようだ。僕は、浴室へ行きシャワーで体についた雨を流す。

「どう?」

 いきなり彼女が浴室のドアを開けた。

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