表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/97

寄りかかり 置いて逝くなと 夏の夢

「きっと、良くない病気なんだ。」

 僕は、彼女の部屋の近くに引っ越すことに決めた。元々、横浜へは出張扱いなので1、2年しかいられない。だから車は持っていない。かといって、さすがに一緒に住むわけにもいかない。その日のうちに、同じ町内に古い貸部屋が見つかった。本当は一軒家がいいんだが横浜ではさすがに値段が高く、会社の補助だけではまかなえない。通勤もさほど不便ではないし、今の所よりは断然安いのでよしとしよう。


「本当は解約の数ヶ月前に言って欲しいんだけどね。」

 しかたなく、三か月分の家賃を余分に払うことで大家と合意した。


 荷物はほとんど無い。週末に僕は引っ越した。ここに長く住むわけじゃない。内装は自分で上からクロスを貼ればいい。やり方は現場の人たちが教えてくれる。


「今日は早いので夕飯を食べに来ませんか。」

 彼女から三日に一回ほど誘いがある。外食は高いし、自分一人分を作るのも面倒だ。

「体調、大丈夫ですか?」

 彼女も医者から何か言われたのだろうか。僕が尋ねるべきなのに、毎回尋ねられる。医者は伝染病と言ったしな。

「ウミさんこそ、大丈夫ですか。」

「時々、なんだかやる気がなくなって。倦怠感っていうんですか。何かの後遺症ですかね。」

 病気のことは内緒だ。

「僕もあります。あります。昼休みとか。食欲がなくなるんです。」

「ちゃんと食べてください。」

「大丈夫ですよ。ウミさんのお陰でしっかり食べられてますから。」


 ここにいると落ち着く。僕は知らずの内に、ずっと彼女のことを目で追っていた。最近、僕の前でも自宅では前髪を上げるようになった。相変わらず傷は目立つが、むしろ愛おしくさえあった。

「片付けぐらいはしますから、休んでてください。」

 彼女は病気なんだ。その日は疲れていたのか、二人でテレビを見ているうちに、僕の横で彼女は椅子に座ったまま寝てしまった。しだいに顔が僕の肩のほうに近づく。まずい。立てない。彼女の手が僕の服をつかんでいた。


「置いて逝かないで。」

 寝言だ。きっと死んだ母か祖父の夢でも見ているのだろう。僕は、

「大丈夫。置いて行かないよ。」

 と言って、思わず彼女の額の傷にキスをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ