表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/97

背を打たれ 煩悩凍る 滝氷柱

 僕はそっと住職に先ほどウミさんから受けた誘いの相談をした。

「お嬢さん、この方には迷いがあるようじゃ。よろしければ、二時間お貸し願えんかな。お手隙なら中で家内の手伝いでもしてやってくだされ。」

 僕は住職に連れられて本堂へ入っていった。彼女は離れのお勝手のほうへ向かった。


「これから迷いを断ち切るための行を行なうでな。これに着替えて付いて参れ。」

 渡された白い法衣に着替える。冬の寒さが身に染みる。そのまま、寺の裏山へと向かった。


 先のほうから、水の音がする。木立を向けると、凍りかけた細い滝が落ちていた。

「ここによいというまで入りなさい。水は頭ではなく肩に当たるように。」

 滝つぼの水は足を切るように冷たい。入ってすぐに足の裏の感覚がなくなり、どこを歩いているのかわからなくなる。水底の石に足をとられながらようやく滝の下についた。

「急がんと余計寒くなるぞ。」

 心臓が鷲掴みにされるように痛む。僕は意を決し、水の中に入った。

「水を肩で受けよ。」

 最初は住職の読経の声が水の当たる音とともに聞こえたが、やがてそれも聞こえなくなった。


「よし。」

 僕は大きな声で我に返った。住職が大きく手招きをしている。急いで水から上がろうとするが、足が思うように進まない。何度か転びながら、ようやく陸に上がった。水からでると、体は一層激しく震えた。住職は僕に頭から大きなタオルを被せた。


 震えながら寺に戻った僕は、自分の服に着替えたが、どうにも震えが収まらない。

「よく耐えたな。この汁で温まるがよい。」

 それは、具の無い味噌汁だった。お椀を持つ手は震えたが、汁の温かさが心地よい。口に一口含む。なんとも暖かい。そして味わう間もなく、一気に飲み干した。それは、あの時の炊き出しの豚汁にも似た美味しさだった。


「震えが収まったら、30分の座禅じゃ。」

 座禅用の部屋で壁に向かって座る。

「足は楽に組んで。落ち着かねば壁を背にしてもよいぞ。」

 閉所恐怖症の人などへの配慮らしい。

「瞑想とは、雑念を捨て自分の心を深く知ること。考えるのではなく、知ろうとすることが大事だ。」


 たまに警策でたたかれる。音は大きいがさほど傷みはない。30分の瞑想が終わったが、僕は何も知ることが出来なかった。

「さ、疲れたでしょ。これをどうぞ。」

 出されたのは、また具の無い味噌汁だ。口に含むと今度はぬるい。まあ、味はよいのだがなんとも物足りない。僕は少し飲んだだけで椀を置いてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ