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冬朝陽 主無き船 霜の海
街に下りたが、道路は泥だらけだ。側溝やマンホールに落ちないように棒で確かめながら進む。時折、うめき声のようなものが聞こえるが、瓦礫が邪魔で近づけない。別の災害だったら、助けに行けたかもしれない。薄情と言われるかもしれないが、まるで空襲の後のような景色を前に、入っていく勇気は出ない。
海沿いを避けながら進むと、一艘の漁船が木に引っかかっていた。船頭多くして船山に登るということわざがあるが、主もいないのに陸に打ち上げられている。
「こんなとこまで流されたのか。」
そこここにコンクリの基礎が見えるので、家があったことはわかる。が、電柱も看板もなぎ倒され、どこを歩いているのか正確にはわからない。時折現れる避難所への看板だけが頼りだ。
大きな建物には二階から三階にかけて津波の高さがわかるウオーターマーカーが残されている。
「おそらく、自宅にいたら助からなかったな。」
なぜ僕が助かったのかはわからない。老人は何かとご先祖様のお陰だというが、本当に先祖に守られているのか確かめようもない。だいたい墓参りもろくにしたことはない。思い当たるとすれば、幼少の頃に亡き祖父母に可愛がられていたという、両親の言葉くらいだ。




