名月や 被災し前と 同じ顔
月がいつも同じ面をこちらに向けているのは、月の重心が偏っているからだという。一枚だけのウミさんの写真。彼女もいつも同じ顔を向けている。静止画だから当たり前か。
これは恋なんだろうか。いままでも女性を好きになったことはあるが、ときめきがあった。どこに行こうか、どうやって会おうか。そしてなによりも、自分をよく見せたいと常に策を考えていた。
だが、今は出かける必要も無い。ただただ自暴自棄になりはしないかと一人にしておくのが心配だった。
「そんなに弱くはないです。」
と、返事は来るものの、弟の話では時折ボーとして腑抜けたようになっているというのだ。仕事も休んでいるらしい。おじいさんが死んでも、子猫の世話で張っていた気が、その死とともに緩んでしまったのだろう。
「猫とか飼ってみたらどうですか。」
「先に死んでしまうでしょ。もうあんなお別れをするのは嫌なんです。それに私が先に死んだら、もっとかわいそう。」
完全なペットロスだ。なんとかしてやりたいが、離れすぎていて直接手をかすこともできない。もどかしさがつのる。
「仕事どうですか。」
彼女の弟から聞いたとも言えないので、漠然と尋ねた。僕は彼女の仕事を未だに知らない。
「祖父の一周忌まで休みをいただいています。仕事中に祖父のことを思い出してしまって。」
いったいどんな仕事なんだろう。やっぱり時計関連かな。
「どんなお仕事か聞いていいですか?」
嫌われる覚悟で尋ねた。
「あ、まだお話してませんでしたっけ。私、葬儀社に勤めています。」
ショートの黒髪、黒いパンツスーツ。薄い化粧に古風なメッセージ。なるほど、全てがつながった。




