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虫の声 写真の君に 聖母見ゆ
白いカッターシャツに反射した光で白い肌が一段と明るくなった。
「無理に笑わなくていいですから。自然にしていてください。」
僕は、携帯画面を見ながら移動する。
「カシャッ」
約束通り一枚だけ撮った。僕は写真を彼女に見せた。何気ない表情をした一人の女性が部屋に立っている。ただそれだけだった。
「本当にこんなんでいいんですか。本当に何でもいいんですよ。」
彼女が耳元でささやく。
「はい。」
僕は、写真が撮れた嬉しさで元気に返事した。
彼女が帰ると、急に静かになった。
「虫が鳴いてる。」
そのとき、それまでまで感じたことの無い疼きが起こった。頭の中で彼女の残像が暴走を始める。やばい、この感情を知られたら絶対に軽蔑される。先ほど撮った写真を急いで探す。
「ふう。」
とたんに疼きが収まった。この安らぎは、もしかしたら信者が聖母を見たときの感覚なのかもしれない。
このとき僕は人生で初めて独りでいることに寂しいと感じた。




