船便に 漂流瓶の 夜長LINE
「幸運の女神は、一度だけ振り向く。」
先輩の言葉が頭をよぎる。果たして、今が最初のすれ違いなのか、それとも振り向いた瞬間なのだろうか。
これはきっと恋ではない。ドキドキとときめかない。逆だ。とても落ち着く。そうだ、温泉に入って肩までつかった時のあの感じ。まるで不完全な自分の心の欠けた部分がようやく埋まったような幸せな気持ちにさせる。
「ウミさんを見ていると、なんだかとても安らぎます。」
もしかして、また失礼なことを言ったんじゃないだろうか。後悔と不安にかられる僕に、
「女性として魅力が無いってことかしら。」
彼女はちょっといたずらっぽく笑った。
「何かお渡しできそうな祖父の形見があるといいんだけど。」
立ち上がろうとした彼女を僕は引きとめた。
「すでに持ってます。あの鳩時計以上に思い出のあるものはありませんから。」
帰りの電車で、車窓から夕日を眺めながら、去り際の弟の言葉を思い出してた。
「久々に姉の笑う姿を見ました。もし、お嫌でなければこれかも相談に乗ってやってください。」
彼女は思春期を迎えた頃から人間不信に陥ってしまったという。理由は尋ねなかった。一般的には、家庭内、特に両親の不仲が原因と言われる。
「唯一信頼していた祖父が亡くなったのが、こたえたようです。弟の私にさえ本心は見せません。ただ、祖父が最期まで感謝していたあなたは特別なようです。」
僕と彼女は二人だけの連絡用のLINEを登録した。
「すぐに既読にならななくても心配しないでくださいね。わたし、船便なもので。」
「僕こそ、いつ届くかわからない漂流瓶ですから。」
あの時の楽しそうな笑い顔が頭から離れない。僕は一つだけ後悔した。
「一緒に写真を撮ってくればよかった。」
今となっては、後の祭りである。
職場に復帰したが、元の仕事には戻れない。生産管理の部署に配属された。新製品が出ない限り、暇なところだ。元の同僚たちは、前と変わらず接してくれるが、経理の女子は、ろくに働かない給料泥棒と思われているのか、辛く当たってくる。
そんな他愛のない事をたまにウミさんに報告する。すると数日後に
「いいたいやつには言わせておけばいいんです。お天道様はちゃんと見てますよ。」
と少し古風な返事がきた。これじゃどっちが相談に乗っているのかわからない。




