ジーツクツク 祖父と愛猫 送る夏
「今日はやけに蝉の鳴き声が大きいようで、うるさくてごめんなさい。」
お茶と茶菓子をお盆に載せて、ショートで化粧っ気もなく僕の前にやってきた。今日は前回の黒とは違う喪服だった。
「ツクツクボウシが、爺着く着くと無事成仏できたことを報告してくれているんですよ。」
ボイッシュな女性の前では、異様に頭が回転する。
「祖父は生前、私の両親が先に他界したことをとても気にしていたようでした。なので私たち姉弟を可愛がってくれました。ですが、それで祖父が幸せだったのか確信が持てません。」
確かに、人の心の奥底は誰にもわからない。
「仏教では人だけが輪廻転生の輪を抜け出して、成仏できるとされています。それは、人だけがこの世に未練を残さない方法を知っているからだと思うんです。自分の思いを後世に託す。そうすることで、安心して次の世界へ行けるんだと思います。あの震災では誰もが命を失ってもおかしくなかった。仕事は弟さんが、子猫はあなたが引き継ぎました。だから、きっともう思い残すことはなかったんじゃないでしょうか。」
我ながら驚くほど言葉が出てくる。こんなに話しやすい女性とは会ったことがなかった。夏美も話しやすいが、あいつとはどうも反発してしまう。
「その子猫も、祖父の後を追うように亡くなりました。」
そう言われてやっと、僕は仏壇に彼女の携帯の待ち受けの子猫の写真が飾られていることに気付いた。
「きっと今頃は、皆で仲良くしてますよ。そう信じてあげるのが残された者のできることだと思います。」
彼女は改めて仏壇のほうを振り返った。




