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新盆や 送り届けよ アゲハ紋
翌朝ホテルを出て、9時頃に伊勢佐木町の商店街に着いた。お店が開く前のほうが迷惑がかからないだろう。時計店は以前と同じで、わかりやすい場所にある。表には大きなアゲハ蝶の家紋の入った提灯がぶら下げてあった。蝶は昔から霊の乗り物と言われている。予め到着時刻を告げておいたので店のシャッターの隅が開いている。
僕はそこから恐る恐る中に入った。
「ごめんください。」
僕の声に店の主人が顔をだした。それは、花まつりで会ったあの若者だった。
「よくいらっしゃいました。さ、どうぞお上がり下さい。」
奥の座敷へと通される。
「仕事場なので狭いですが、くつろいでください。」
小さな仏壇があって、中にはあの時のお爺さんの遺影があった。さらに奥の小さなキッチンでは姉のウミさんがお茶の用意をしている。
「私は急ぎの仕事が残っていますので席を外しますが、姉が気落ちしていますんで声をかけてやってください。」
店主はそそくさと店のほうへと向かった。そして、その一角にある作業スペースで時計の修理を始めた。外では今が盛りとばかりに激しくツクツクボウシの鳴いている。




