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我れ先に 凍る石段 『蜘蛛の糸』
下の国道から丘に続く石段には、津波を免れた人たちが、登ってくる。急な坂に途中で休む年寄りもいたが、その脇を手をかすどころか勢いよく駆け上ってくるさまは、人間の強欲の表れなのだろうか。
上り口では人の群れができ、こぜりあいが始まる。普段なら、気さくでやさしい田舎の人も命の危機を前にするとこうも変わるものだろうか。それに気付いた青年団と思しき若者たちが老人を励ましながら上がってくる。よほどしんどいのか幼子を託す者もいる。
「今のうちに、より高いところに移動してください。」
その声に後ろへと一斉に人が流れ始める。知人でも探しているのだろうか。時折、流れに逆らって歩く人もいた。
見えないけれど、きっと流された人もいるはずだ。この丘にたどり着けた人と、間に合わなかった人。
「神はさいころは振らない。」
ならば、かれらの生き方にいかばかりの差があったというのだろうか。
僕自身、さほど世の役に立ってきたとは思えない。それでも神はこの先何かを期待して生かしてくれるというのか。僕は近くで寒さに震えながら歩く老人に自分の毛布をかけた。
「大丈夫だから。」
そういう老人と共に、このあたりで一番の高台にあるお寺を目指した。




